一定の社会集団、部族や親族が、その祖先の出自などとして信仰する特定の自然物、おもに動植物をトーテムといい、そのトーテムを祀(まつ)って儀礼を執行し、崇拝することによって、集団を統合する機能を持つ社会制度をトーテミズムと呼ぶ。森羅万象に霊性を見るアニミズムやシャーマニズムの延長線上にある、宗教の原初的な形態と見なされる。ある社会集団が他の社会集団との差異関係や自集団の同一性(アイデンティティー)を表象する社会制度であるとともに、自然と文化の対応関係を認識するための思索的な方法でもあるとされる。トーテムはアメリカ先住民オジブワ族の言葉に由来し、彼らを含む先住民諸族が立てる「トーテム・ポール」として発見され、「トーテミズム」という用語が生まれたが、のちに同様の事例は、オーストラリアやメラネシア、ポリネシア、アフリカなどにも広くあることが判明した。フランスの社会学者エミール・デュルケム(mile Durkheim)は、オーストラリアの先住民社会を例に、特定の集団が特定の動植物のトーテムと親縁関係にあると信じ、これに基づくトーテムを祀る儀礼や、トーテムを殺したり食べたりしない禁忌(タブー)を行うことで、集団の秩序や連帯を確認させ、社会全体を統合する働きをしているとする、トーテミズム理論を形成した。