漢方薬は天然産品を用いているといえども、アレルギー反応などによる副作用は起こりうる。例えば、蕎麦(そば)やシナモンのような身近な食品でも、その食品のアレルギーの人にとっては、不快な症状や危険な状態を引き起こす可能性がある。このため、生薬が原料である漢方薬においても、発疹や胃もたれなどの症状や、極めてまれではあるが、薬剤性の肝障害、間質性肺炎などの副作用が出現する場合もある。しかし、漢方薬による副作用の出現頻度は、西洋薬に比較すると低いといわれている。「薬剤性間質性肺炎」の副作用が社会的に話題となった「小柴胡湯(しょうさいことう)」による例でも、その発現頻度は年間約2万5000人に1人といわれ、インターフェロンによる同じ副作用の発症率500人対1人に比較すると低い。また、漢方医学的にみて、ある症状に適さない薬を飲んだ場合、かえって症状が悪化することがあるが、これは「副作用」ではなく、漢方医学的に誤った治療「誤治(ごち)」と呼ばれている。例えば、胃腸の弱い高齢者が長引くかぜに「葛根湯(かっこんとう)」を飲んだことで、かえって食欲低下や胃もたれなどが生じる場合などが該当する。葛根湯は、「胃腸が丈夫で血色のよい人で、かぜの引き始めの悪寒がする時期」に用いるため、胃腸の弱い高齢者がかぜをこじらせた場合には、漢方医学的には初めから葛根湯の適応(葛根湯証)ではないと考える。さらに、症状が治癒する過程で、一過性の症状増悪あるいは予期しない症状がみられることがあるが、これは「瞑眩(めんげん)」と呼ばれている。治療経過中に、瞑眩と副作用を区別するのは困難な場合が多く、「瞑眩」は軽快して初めてわかるのがほとんどである。