生薬は、天然物に簡単な加工を施した薬物素材である。日本では、約90%が植物性由来の漢方生薬を用い、残り約10%が石膏(せっこう)や滑石(かっせき)などの鉱物性や、セミの抜け殻やニカワ質(コラーゲン)などの動物性の生薬を使用する。生薬の中には種々の成分が含まれていることが知られており、例えば、麻黄(まおう)から抽出されたエフェドリンは、西洋薬では気管支ぜんそくの治療に使用されている。薬物学書の祖『神農本草経』では、365種類の生薬について、上薬(じょうやく)120種、中薬(ちゅうやく)120種、下薬(げやく)125種に分類している。上薬は、無毒で長期服用が可能であり、不老長寿の効用をもつ生薬とされ、朝鮮人参(にんじん)、柴胡(さいこ)、甘草(かんぞう)などが挙げられる。中薬は、体質改善を目的としたもので、虚弱体質を治すことで発病を抑え、黄耆(おうぎ)、葛根(かっこん)、麻黄などが含まれる。下薬は病気を治す効力が強い半面、副作用が生じやすいため、長期間連用しにくい場合があり、大黄(だいおう)、附子(ぶし)はその代表である。さらに、生薬には四気(寒性・熱性・温性・涼性)などの性質もある。漢方医学では、薬は単に病気を治す治療薬としてだけでなく、病気の予防や健康増進の目的も含む概念となっている。