高齢者の漢方治療では、西洋医学的な疾患だけでなく、老化による不調への対応も必要となる。漢方医学は、老化には大きく2つの流れがあると考える。まず陽から陰への流れである。基礎代謝(安静時でも最低限必要な熱量の産生)が、活発な陽の状態から低下した陰の状態に変化する。つまり、若い頃には体から多量の熱を発することができるが、高齢者は熱を作りにくく、冷えて寒さに弱い状態になる。そして実から虚(きょ)への流れである。がっちりとした筋肉質の体つきで、積極的で疲れにくく、胃腸が丈夫な実の状態から、やせ型や水太り、消極的で疲れやすく、胃腸も弱い虚の状態に移行する。虚の状態では体力がなくなり、風邪をひきやすく、治りにくくなる。このため、高齢者の漢方治療では、陰と虚を考慮することが大切になる。代謝を高めて冷えを改善する附子(ぶし)を始め、元気をつける効果のある朝鮮人参(ちょうせんにんじん)、黄耆(おうぎ)などの生薬を使う頻度が高くなる。老化による症状は多岐にわたりやすいため、治療は比較的長期間におよぶ場合がある。漢方薬の投与量は、標準よりも減量した方が効果的なことが多い。