中国の古典には、精神的過労などから貧血になったり、消化機能が衰えたりして物忘れや動悸(どうき)不安があるものを治す、と解説されている処方。現代臨床では胃腸虚弱な人で、全身倦怠感(けんたいかん)や食欲不振のほか、抑うつ気分、不眠、動悸などの精神神経症状を訴える場合に用いられる。また、貧血や出血などにも応用される。構成生薬は、胃腸の機能を高め、生命活動を営むエネルギーである気(き)を補う働きがある黄耆(おうぎ)、朝鮮人参(ちょうせんにんじん)、朮(じゅつ)、茯苓(ぶくりょう)、大棗(たいそう)、生姜(しょうきょう)、甘草(かんぞう)を始め、精神神経症状に効果がある酸棗仁(さんそうにん)、竜眼肉(りゅうがんにく)、遠志(おんじ)、木香(もっこう)、血液循環である血(けつ)の働きを補う当帰(とうき)が含まれている。このため帰脾湯は、気だけでなく、血も補う処方であると解説されている。さらに清熱作用のある柴胡(さいこ)、山梔子(さんしし)が追加されると加味帰脾湯(かみきひとう)と呼ばれ、鎮静効果や抗炎症作用が帰脾湯よりも強いため、精神神経症状が強い場合や症状が遷延しているときに用いられる。