天然に存在する核分裂性の原子核は、ウラン-235だけである。しかし、非核分裂性のウラン-238に中性子を吸収させると、核分裂性のプルトニウム-239に変わる。そのプルトニウムを利用しようというのが、現在、確立が目指されている核燃料サイクルであり、またプルトニウム・サイクル(plutonium cycle)とも呼ばれる。一方、地殻には、ウラン以上にトリウム(原子番号90の元素。ウランは92)が存在しており、トリウムの100%がトリウム-232である。トリウム-232は非核分裂性であるが、中性子を吸収させると、核分裂性のウラン-233になる。そこで、プルトニウム・サイクルを作るのと同じようにして、トリウム・サイクルを作る構想がある。国内のウラン資源が貧弱ながらトリウム資源を豊富にもつインドが、古くから開発に努力を傾けてきた。ただし、もともと核分裂性であるウラン-235を使う原子力ですら、技術的・経済的・社会的に困難を抱えてきている。プルトニウム・サイクルも実現のめどが見えないままだし、トリウム・サイクルが実現される可能性はさらに低い。