低い線量の放射線による被曝。被曝の影響は、大量の被曝を受けた場合に現れる急性障害(acute injury)と、それほどの被曝を受けなくても長い年月がたった後に現れる晩発性障害(late injury)に分けられる(→「放射線障害」)。このうち、急性障害は因果関係がわかりやすいが、晩発性障害は、被曝という原因と、その影響が現れる結果までに長い年月があるがゆえに因果関係の立証が難しい。また、被曝の影響は非特異性をもっているといわれ、他の原因で現れる障害と区別がつかない。そのため、因果関係の立証は疫学的な手法、あるいは実験的な手法による以外ない。疫学的な立証はこれまで広島・長崎の原爆被爆者データに多くを依存してきた。近年、医療被曝、あるいは原発労働者やチェルノブイリ原子力発電所(Chernobyl nuclear power plant)事故の被害者などのデータも蓄積してきているが、それでも疫学は統計的な手法に依拠しているため、被曝量が少ない領域では影響が検知できなくなる。そのため、低線量被曝は安全かのような主張も時に出てくるが、被曝の影響にはしきい値がなく、低線量に至るまで被曝量と影響の間には直線的な関係があるとのしきい値なし直線仮説が、最も科学的合理性が高いとされている。