天然に存在している原子核で核分裂する性質をもっている原子核は、ウラン-235だけである。しかし、ウラン全体に占めるウラン-235の割合はわずか0.7%しかない。一方、ウラン全体の99.3%を占める核分裂性を持たないウラン-238に中性子を捕獲させると、核分裂性のプルトニウム-239が生成される。そのため、ウラン-235を濃縮して広島型原爆が作られた一方、プルトニウムを作り出して長崎型原爆が作られた。しかし、地殻中のウラン資源は乏しく、ウラン-235だけを利用する限り、原子力は意味のあるエネルギー資源にならない。そこで、ウラン-238をプルトニウムに変換して利用しようとしたのが、再処理、高速増殖炉を中心にした核燃料サイクルである。しかし、それは一向に実現できないし、プルトニウムを大量に利用するようになれば、核拡散上の支障も出る。そこで、地球上にあるトリウム-232を利用する案が出てきた。トリウム-232は核分裂性を持たないが、地殻中に大量に存在しており、中性子を捕獲させると核分裂性のウラン-233になる。そして、トリウム-232の娘核種にタリウム-208があって、2.6MeV(メガ電子ボルト)の高いエネルギーを持ったガンマ線を放出するため、テロリストには扱いにくく、核拡散抵抗性があるといわれている。トリウムをフッ化物の溶融塩に混ぜ、液体状のまま燃焼させるというもので、燃料の成型加工もいらないとされる。しかし、液体の溶融塩による原子炉構造材の腐食問題があるし、核分裂生成物を含んだまま溶融塩を循環させるため、機器のメンテナンスに多大の困難をともなう。そのうえ、もともと核分裂性をもたないトリウム-232を核分裂性のウラン-233に変換したうえで燃焼させなければならず、迂回生産となって困難が増大する。