2011年3月11日に東北地方太平洋沖地震が発生した際、福島第一原子力発電所の1号機、2号機、3号機は運転中だった。そして、続いて襲ってきた津波の影響もあって発電所全体が停電し、崩壊熱を除去できず、炉心が溶融した。溶融した炉心は原子炉圧力容器を溶かして原子炉格納容器の底に落ち、その底すら貫通している可能性もある。その現場は、強烈な放射線のために人間が近づくこともできないし、状況を知るための測定器の配置すらなかった。平常運転時の状況を知るために配置されていた測定器も、次々と壊れ、いまだ現場の状況が全く分からない。それでも、これ以上の炉心の溶融は回避しなければならないので、どこにあるかも分からない炉心に向かって、事故以降ずっと冷却のために水を注入してきた。しかし、炉心に水を接触させれば、その水が放射能で汚染されることは必然だし、福島第一原子力発電所では、毎日約400tの地下水が原子炉建屋内に流れ込んでくる。そのため、放射能汚染水がどんどんと増加し、東京電力は敷地内に応急的なタンクを林立させ、汚染水を貯留してきたが、それらのタンクも頻繁に漏れを起こして、海に流出している。
少しでも流出を止めるためには、まずは汚染水と地下水の一体化を防ぐことが必要で、原子炉建屋周辺にバリアーを張り巡らせる計画が検討されてきた。11年5月末には、鋼鉄とコンクリートを使って地下ダムのような遮水壁を作る計画があったが、工事が難しく、費用がかかりすぎて東京電力の株主総会を乗り越えられないとの理由で、見送られた。しかし、事態は悪化の一途をたどり、周辺の地下を凍らせる案が浮上してきた。それが凍土壁で、地中に塩化カルシウムなど特殊な冷媒を流すパイプを1m間隔で打ち込み、周囲の土地を凍らせることで壁を作ろうという試みとなる。凍土遮水壁とも呼ばれるこの工法は、これまでも地下にトンネルを掘削するときなどに利用されてきたが、今回の場合、深さ30m、全長が1.4kmにもなるうえ、一度でも冷却が途絶えると、壁自体が崩壊してしまう。