2010年2月1日、アメリカのオバマ大統領は、11年度予算教書を発表し、そのなかでアメリカの宇宙開発の方向を大きく変える政策を打ち出した。20年までの有人月探査復帰に代わり、長期的に有人月・火星、あるいは地球近傍小惑星探査を目指した技術開発と、無人探査機による太陽系各所への先行無人探査に力を入れるというもの。具体的には以下の通り。
(1)前ブッシュ政権が打ち出した有人月探査計画のための宇宙船・ロケット開発計画であるコンステレーション(Constellation program)の中止。
(2)有人探査に必要な基礎技術の研究開発への投資を優先。
(3)基礎技術を軌道上で実証するFlagship demonstration programの実施。
(4)有人探査に必須の大型ロケット向け基礎技術開発に注力。
(5)地球低軌道への有人・無人輸送システム開発への民間活力の利用。
(6)太陽系各所への先行無人探査の実施。
(7)地球環境及び、地球環境に影響をあたえる太陽観測の強化。
(8)老朽化したNASA(アメリカ航空宇宙局)施設の更新、次世代教育への継続的投資。
コンステレーション中止とスペースシャトル引退で発生した財政的余裕を、将来の有人探査に向けた基礎技術開発と無人探査に振り向ける内容となっている。しかしながらオバマ新宇宙政策に対しては、コンステレーションの中止を国家による有人宇宙活動の中止と受け止めた共和党を中心とする勢力が、反対する動きを活発化。結果、オリオンMPCVの復活と、事実上のアレス5ロケット復活である新ロケットSLSの開発開始という形で、オバマ大統領は妥協を余儀なくされた。