環境リスクのうち、生物多様性や生態系サービス(→ミレニアム生態系評価)の恵みに与えるリスク。人間の健康リスクの影響判定点が個人の死であるのに対し、生態リスクのそれは多様だが、人と自然の持続可能な関係を後世に残すという目的に照らせば、生物個体の生死でなく、生物種や個体群が損なわれないことが重要である。そのために、地域個体群の遺伝的多様性や固有性の喪失、個体群の絶滅、地域生態系の機能の低下などが影響判定点の候補となる。
しかし、それらを直接評価する普遍的手法は未確立で、化学物質ではしばしば生体組織の変化、個体の生死や成長繁殖の異常を影響判定点とする。船底塗料に使用されたトリブチルスズ(TBT)は、巻貝類などの雄化という激甚な影響が現れ、生態リスク回避のために使用禁止になった。最近では、慢性毒性データから生態リスクに基づく環境基準が亜鉛で定められ、生態系のために水道水より低い濃度が求められている。