その安全性を量子力学の原理に依存するような暗号方式。共通鍵暗号方式(private key cryptosystem 秘密鍵暗号方式ともいう)における鍵配送(key distribution)の部分を量子情報を用いて行う暗号方式を指す。それを強調するため、量子鍵配送(quantum key distribution)と呼ばれることもある。現在流布している暗号(現代暗号)は量子力学を使わず、その代表である公開鍵暗号は量子コンピューターにより破られることがわかっているが、量子暗号は破られない。送信者と受信者は必ずしもエンタングルメントを使う必要はないが、その場合量子暗号装置が信頼できるものでなければならない。送信者と受信者がエンタングルメントを使う量子暗号方式の場合、第三者から提供された量子暗号装置であっても、ときどき入れるテストビットのデータだけから安全性が保証される方式がある。量子暗号は実験室段階を越え、実際に敷設されている光ファイバーを使って数10kmの現場試験が、アメリカ、欧州、日本、中国などで行われている。ただこれらはエンタングルメントを使わない方式であり、エンタングルメントを使う方式は基礎研究の段階にある。また、変復調方式も種々考案され、標準的な方式であるBB84、B92、エンタングルメントを使う方式の走りであるE92、そして最近のRRDPS(round-robin differential phase-shift)方式(→「RRDPS量子暗号」)に至るまで多種存在する。これらの中には安全性の数学的証明が完成していない方式もあるが、次々なされる提案に対して安全性証明の研究はよく追随しており、大部分は安全性が証明されている。