生物の中では、たんぱく質が合成される際にいろいろな不都合をおこす可能性のある構造を避けて、最適な構造になるなど、ある意味で「最適化問題」が解かれている。このことから類推して、生命の起源であるDNAを難しい計算に使うことが提案されている。たとえば、出発点から複数の地点をそれぞれ1回だけ経由して目的地に向かう「巡回セールスマン問題(traveling salesman problem)」を考える。地点間に接続があるものが限られる場合、このような解があるか、あればどのような解かは自明ではない。また、地点が増えれば解を見つけることは至難の業になる。
DNAコンピューターのアイデアでは、各地点に4種類の塩基の独自の配列を割り当てる。また、地点間に接続がある場合、それぞれの地点の半分の塩基列が結合した辺を作る。これらをビーカーに入れ込むと、さまざまな結合が並列に進んでいく。その後に、結合した地点と辺を示す塩基列のトータルな長さ、始点・終点が正しい地点であるか、すべての地点が含まれているかなどを判定基準にして、正しくない結果を捨てていくと正解のみが残る。最後まで残るものがあれば、正解があることを意味し、この正解の塩基列を読めばどのような経路になるかが分かる。
それは、一種の超並列マシンである。塩基は4種類あるので、たとえば20の塩基がつながった鎖は420(約1兆)通りあり、今までのコンピューターで不得意だった分野に対応できるといわれている。DNAが複数結合したタイル状のものをつなげるものや、DNAの折り紙(→「DNAオリガミ」)の性質を利用した計算、マイクロ/ナノ流路(→「ナノ流体制御」)などを用いてDNAの混合を順次行う計算なども提案されている。
計算は混ぜた瞬間に終わっても、正解を取り出すのに時間がかかる問題や、設問が複雑になるにつれ、必要になるDNAの量が指数関数的に増える問題はあるが、生体とのマッチングもよく、生体内で自らセンシングや解析を行ったうえで薬剤を散布するようなスマートドラッグなどへの応用も期待される(→「分子ナノエレクトロニクス」「バイオコンピューター」「分子バイオコンピューティング」)。DNAの塩基配列の組み合わせをデジタル情報の記憶に用いるDNAストレージ(DNA storage)も着目されている。