元来は、科学の内容を分かりやすく一般人に伝えることを意味する。イギリスで1826年から続く王立研究所(Royal Institution)のクリスマス・レクチャー(子供向け講演会)やフライデー・ディスコース(成人向け講演会)など、古くからその活動は行われてきた。イギリス人の科学リテラシーの低下を指摘したボドマー卿による1985年のロンドン王立協会のリポート以来、サイエンス・コミュニケーションは再度脚光を浴びるようになった。同国では、王立協会や英国科学振興協会が連携してCOPUSという団体を組織し、「一般人の科学理解の改善」(PUS;Public Understanding of Science)の取り組みを進めた。具体的には、科学博物館の整備・活性化、科学雑誌の創刊、サイエンス・コミュニケーターの養成などが取り組まれた。しかし、90年代、遺伝子組み換え作物に関する論争やBSEの問題により、一般市民の科学技術への不信が高まった。科学者から一般人への一方向の情報伝達に対しては、欠如モデルによるという批判がなされた。そのため、科学者と一般人の双方向のコミュニケーションとして、コンセンサス会議やサイエンス・カフェなどが取り組まれるようになった。日本でも、各種研究機関がサイエンス・コミュニケーションのためにニューズレターを刊行し始めている。科学技術振興機構が開催するサイエンス・アゴラも、サイエンス・コミュニケーションの活性化を目指すものである。また、文部科学省によってコミュニケーター養成が図られ、科学技術振興調整費を用いて2005年度から5年間、北海道大学、早稲田大学、東京大学にそのためのユニットが設けられた。その一つの成果として08年に発足したサイエンス・メディア・センター(一般社団法人で、オフィスは早稲田大学に設置)は、科学報道を支援する機関であり、新たなサイエンス・コミュニケーションのあり方として注目される。12年には、サイエンスコミュニケーションの推進団体として、日本サイエンスコミュニケーション協会が社団法人として発足した。東日本大震災を受けて、リスクについてのサイエンス・コミュニケーション(リスクコミュニケーション)も注目されている。これも踏まえて、12年、科学技術振興機構に科学コミュニケーションセンターが設立された。