素粒子の間に働く力は、場の量子論で記述される。電磁力を媒介する光子場はベクトルのゲージ場(→「ゲージ場理論」)であり、繰り込み可能である。1960年当時、弱い力もベクトル場の弱ボゾン(→「四つの基本的力」)が媒介することが分かっていた。ところが、ゲージ場の質量はゼロであるべきなのに、弱ボゾンは大きな質量を持っていなければならない。成功した電磁力の理論に近づけるうえでの難題として“ゲージ場に質量を持たせる問題”が浮かび上がった。南部陽一郎シカゴ大学名誉教授は、57年に出された超伝導を説明するBCS理論で導入された場の量子論での「真空の相転移(phase transition of vacuum)」の考えを、素粒子論の理論に適用してハドロンの質量など場の量子論の真空問題に活路を見いだした。質量というのは素粒子出現に要する最低エネルギーのことである。真空状態が変わると、この最低エネルギーの値が有限の大きさになる。これを質量の起源というのである。この考えを発展させたP.ヒッグスの理論を受けてS.グラショー、S.ワインバーグ、A. サラムが電弱理論(→「標準理論」)を67年ごろに提出し、標準理論の確立に向かった。南部はこの他に強い力の量子色力学(quantum chromodynamics)の発端をも開いた。