2015年にLIGO(ライゴ)で実測された重力波は、いずれもブラックホール(BH)の合体がその源である(→「重力波の直接検出」)。重力波源(gravitational wave source)は超新星爆発からビッグバン初期に由来するものまでいくつもあるが、LIGOが捉えられる変動の周波数帯は限られている。中でも一番効率のよい重力波源は、連星となっているBHとBHの合体である。コンパクト星の近接連星系には中性子星(NS)+BH、NS+NSがあるが、BH+BHの合体過程は規則的な経過をたどるので、現象の同定が一番よくできる。ここで威力を発揮するのがコンピューター・シミュレーションである。BH+BH系では、流体力学がなく、全て一般相対論時空のシミュレーションであり、クリーンな現象である。
連星は重心の周りを公転しており、軌道半径は次第に小さくなって重力波の振幅が増していく。「事象の地平線」の面の2倍くらいまで接近すると、二つのBHが合体して、球体から大きくずれた形から振動を繰り返し、次第に振動が収まって球状になる。この固有の振動周期から質量が決まる。初めて直接検出した重力波イベントGW150914では、この過程が全部で0.4秒ほどで、合体時に一番強い重力波が放出された。変動を周波数分析すると、35~250Hz(ヘルツ)の間にあり、これらの振動数は人間の可聴音の振動数に近いので「重力波のさえずり」などと表現される。
こうしたシミュレーションを公転軌道と観測方向、質量のさまざまなパラメータで重力波の波形(時間変動)を計算したテンプレートを作り、それらと、観測された波形とのマッチングの最適化を行うことで、軌道半径変化、二つのBHの質量、地球からの距離などの数値が推定される。GW150914では、36M(Mは太陽の質量で約1.99×1030kg)と29MのBHが合体して、62Mの一つのBHになり、36M+29M-62M=3Mであるから、3Mの質量エネルギーが重力波のエネルギーとして放出された。この絶対値と見かけ上の強度から距離が分かり、410Mpc(メガパーセク:1Mpc=約3.09×1022m)、光源が遠ざかることで光の波長が伸びる割合を表す赤方偏移は0.09である。データの不確定さの幅は大きく、たとえば距離は570M~230Mpcで、膨張宇宙での観測限界の地平線までの距離の約10分の1である。これはLIGOで予想していた放射源としては遠いものであるが、観測できたのは、恒星合体にしては異常に強い重力波が出たことによる。第二のイベントGW151226では質量は14M+8M、放出エネルギーは1M、距離はGW150914とほぼ同じ。重力波候補となっているイベントLVT151012では、質量は23M+13M、放出エネルギー1.5M、距離は600M~1600Mpcである。