分子レベルで見た、分子ないし超分子(→「超分子化学」)内部での原子の移動は、巨視的レベルでの機械的過程に対応する。超分子化学の応用として、酸塩基の中和反応、溶媒の変化、電圧、熱、光などで動かされる機械的機能をもった分子、すなわち分子機械(molecular machine)が注目されている。ひも状のロタキサンや絡み合ったカテナンなどが有望で、前者の結合位置の間にある輪の移動は、一種のシャトル(往復船)にたとえられ、特に分子シャトルと称される。その多くは環状の分子に対して軸状の分子が貫通した構造をもつロタキサンである。シクロデキストリンを輪、イオン性高分子を軸としたロタキサンがその一例である。その回転子の動きは温度、溶媒、軸の構造などで制御可能であり、回転子の左右の位置で0と1との区別が可能な、一種の分子スイッチとして機能する。