アリストテレス(Aristotels 前384~前322)に由来する対概念で、実体に関して、その材料・素材となる質料と、その設計図となる形相との組み合わせで理解するものである。
プラトン(Platn 紀元前428/7~前348/7)は、独立に存在する「形」(イデア ideaまたはエイドス eidos)が場所に宿ることで個物が成立すると考えた。アリストテレスはこのような形と場所の二元論を受け継ぎつつ、しかし形は個物から離れて独立に存在する実体ではなく、むしろ個々の質料のなかにその種的な本質として内在すると考えた。例えば人間の場合なら、身体が質料、魂が形相であり、両者が組み合わさって人間という実体が成立するのであり、身体から離れて魂だけが存在することはできない。この立場はときに質料形相論(hylomorphism)と呼ばれる。
このような二元論的な見方は中世にも受け継がれ、形相(species 羅)の概念を中核とする認識論や存在論へと発展した。しかし近代の科学革命は、それぞれの物に本質的な形相が宿っているとする考え方を誤った目的論として排斥し、形相なき質料の機械論を標榜(ひょうぼう)した。これに対してカント(Immanuel Kant 1724~1804)は、形式/質料(Form : Materie 独)の二元論に立脚しつつ、形式は認識主観のもつアプリオリな秩序化原理であると理解した。ここに、機械論的な唯物論(materialism)と主観的形式に立つ観念論(idealism)という、哲学の近代的な対立図式が確立したのである。