イエス・キリストの裏切り者ユダは、実際にはイエスの指令に従っただけだったと記された「ユダの福音書」が修復され公開された。この福音書は1970年代にエジプトで発見されたパピルス文書の中に含まれていたが、その後行方不明になり、再び発見された時はパピルスが劣化し、もろくなっていた。紀元150年頃ギリシャ語で記され、300年代にエジプトのコプト語(→「コプト教会」)に翻訳されて写本された。180年頃には正統派から異端の書とされ、禁書となった。
367年にアレクサンドリア(→「コプト教会」)の司教アタナシウスが現在の四福音書を含む27の文書を新約聖書の正典とし、今日まで受け継がれている。現在、新約聖書に収められたマタイ、マルコ、ルカ、ヨハネの四福音書では、十二使徒の一人であったユダは銀貨30枚と引き換えに、イエスをローマの官憲に密告して引き渡したと記されている。「ユダの福音書」では「お前は真の私を包むこの肉体を犠牲とし、すべての弟子たちを超える存在になるだろう」、つまりユダは真のキリストが出現するためにイエスの殺害に手を貸すが、それによって十二使徒のうち第一の弟子となると記されている。ユダの裏切りはイエス自身の望みだったのであり、イエスは殺されることによって、肉体を脱却し、救世主として真のキリストとなるという予言を成就させたのがユダだったとされている。この福音書の出現によって、正典としての新約聖書の権威は揺るがないだろうが、様々なイエスの解釈が分派中で行われていた初期キリスト教の歴史的研究には大いに貢献するだろう。