歌舞伎俳優の名跡。屋号は成駒屋。初代(1860~1935)は、明治から昭和初期にかけて上方歌舞伎で絶大な人気を誇り、一代で大名跡を築き上げた。幅広い役柄を得意としたが、中でも近松門左衛門の心中物における二枚目役など「和事」の芸は絶品とされた。2代目(1902~1983)は、初代の次男。父譲りの和事には定評があり、1952年には宇野信夫脚本による「曽根崎心中」の復活上演で徳兵衛を演じ、お初役の長男中村扇雀(のちの4代目坂田藤十郎)とともに近松を現代によみがえらせて評判を呼んだ。しかし、上方歌舞伎(かみがたかぶき)衰退の中で、一時歌舞伎界を離れて映画に転じ、ここでも「炎上」「鍵」(市川崑監督)、「小早川家の秋」(小津安二郎監督)、「雁の寺」(川島雄三監督)、「女系家族」(三隅研次監督)などで名演技を見せた。歌舞伎に復帰後は、6代目中村歌右衛門(1917~2001)や3代目市川猿之助(現2代目市川猿翁 1939~)との共演などで独特の味わいを見せ、近松物の上演にも力を注いだ。80年、文化功労者。女優の中村玉緒は長女。長男(1931~)は、2代目扇雀、3代目鴈治郎を経て4代目坂田藤十郎を襲名した。4代目藤十郎の長男(1959~)が、2015年に4代目鴈治郎を襲名、京都南座の襲名披露公演に際しては、市内で「お練り」を行った。