金融緩和政策による金利引き下げが、ある一定の水準(すなわち、リバーサル・レート)を超えると緩和効果が反転するという理論。金利を下げ過ぎると、預金貸出金利の利鞘縮小を通じて銀行部門の自己資本制約が強まり、金融仲介機能が阻害されるため。黒田東彦日本銀行総裁が、2017年11月にチューリッヒ大学(スイス)の講演で提唱者マーカス・ブルネルマイアー教授(プリンストン大学)の論文を引用する形で同理論を紹介したことから、市場では今後における異次元緩和政策の調整の可能性を示唆した可能性があるとして一挙に注目を集めた。もっとも、その後中曽宏副総裁が都内の講演で「日銀が適切なイールドカーブを把握するための一つの理論」であり、また、現時点で金利水準が金融仲介機能を阻害してはいないと弁明したことからすると、黒田総裁の発言の真意は、「マイナス金利付き量的・質的緩和」の修正を図った16年9月からの「長短金利操作付き量的・質的緩和」が、同理論を意識した上でのものだったことを示すところにあり、今後における日銀の出口戦略(→「テーパリング」)に関わるものではなかったようにうかがわれる。