国会の運営は、法規上は議長や委員長に権限があることでも、実際には一つひとつ与野党が合意して進められる点に特徴がある。議案の採決についても、野党がその議案に反対の表決を行う場合でも、採決を行うこと自体は与野党が合意しているのが通常の姿である。しかし与野党が対決する法案などについて、野党がその成立の遅延やさらには審議未了による廃案を目指すときは、容易に採決を行うこと自体に同意しないことがある。このような場合に、与党が委員長職権を行使したり、質疑打ち切りと採決を行う旨の動議を提出・可決して採決を強行することを、国会ないしマスコミ用語で「強行採決」と呼んでいる。強行採決は通常は委員会審査について言われ、本会議の場合は、本会議の「強行開会」などの表現の方が一般的だが、広い意味では本会議を含めて言われることもある。強行採決の背景は、欧米の議会の委員会審査が法案を逐条的に審査し(具体的には修正の逐条的検討)、審査を進めれば必ず終わりに達し、逆に終わりに達していなければ採決の意味がないのと異なり、日本の委員会審査が、一つ尋ねて一つ答えるという一問一答方式の終わりのない無限の過程として行われていることにある(→「質疑/答弁」)。この過程は、質疑者の持ち時間が尽きることによってのみ終わるが、この方式による審査を何回行うかは事前に決まっておらず、与野党の合意によってのみ決まり、与野党の対決法案の場合、その合意が容易に得られないことから、与党が強行採決に走ることになる。しかし強行採決は、法規的には単に採決を行うというだけのことだから、野党がその不当性を訴えても法的に無効にすることは難しい。そこで野党は、抗議の意味で審議のボイコットを行う。これが「審議拒否」である。自由民主党(自民党)長期政権時代には、野党が足並みをそろえて審議拒否をしているときに自民党単独で審議を続けることは強引であるとして国民の批判を招くことになったので、この戦術は有効だった。しかし1990年代以降連立政権の時代に入り、与党が単独でなくなったことにより、与党は野党が審議拒否をしても、与党だけで審議を続ける戦術を取るようになった。また審議拒否は、いったん行うと与党の譲歩がない限り審議に復帰するタイミングがなく、その間に自分たちが発言したい法案の審議が行われるなどのリスクもあり、採用し難い戦術になっている。与党の強行採決と野党の審議拒否の戦術の採否を決めるのは、結局は国民の反応である。