小泉純一郎政権・安倍晋三政権(第1次)以降、自公連立政権の下での「聖域なき構造改革」の一環として、教育分野でも政治主導のラジカルな改革が進められてきた。文部科学省は2003年7月、「教育の構造改革:画一と受身から自立と創造へ」を公表し、副題の改革理念を、(1)「個性」と「能力」の尊重、(2)「社会性」と「国際性」の涵養(かんよう)、(3)「多様性」と「選択」の重視、(4)「公開」と「評価」の推進の四つにまとめ、初等中等教育と高等教育に分けて、(1)「確かな学力の向上」と「多様な人材の養成」、(2)「豊かな人間性の育成」と「真の教養の涵養と国際・社会貢献」、(3)「地域の創意工夫を活(い)かした特色ある学校づくり」と「競争的環境の中で個性輝く大学づくり」、(4)「開かれた学校・信頼される学校づくり」と「大学の教育研究の質保証システムの確立」という方針の下、教育の構造改革を進めてきた。これらの理念や方針は好ましいと考えられるかもしれないが、理念の転換は利害の再編を伴い、また具体的な改革がその意図に反してゆがんだ結果をもたらす可能性もある。例えば、06年12月に改正された教育基本法(→「改正教育基本法」)と翌07年6月の学校教育法の改正、教員免許更新制、全国学力テストの実施とその市町村別結果公表の動き、エリート的な中高一貫校および特区校の増設や学校選択制の拡大、教育再生会議などによる教育バウチャー制の提案などはその代表例である。その後、09年の総選挙により成立した民主党を中心とする連立政権の下では、高校授業料の無償化、小学校低学年での35人学級の実施、教員定数の改善、全国学力テストの抽出調査への切り替えなど主に教育条件の改善が進められ、ラジカルな構造改革路線からの転換が起こったが、12年の総選挙により自公連立政権・安倍内閣(第2次)が成立し、再び教育構造改革路線が台頭する傾向にある。
いずれにしても、政権・政治が変わる度に教育の制度や在り方が変えられるようでは、教育と教育行政の安定性・継続性や公正性・適切性が損なわれることになりかねない。矛盾のない公正かつ適切な制度・システムにしていくこと、保護者・地域住民の参加・協働を促進すること、現場の教職員が誇りと夢と自信を持って教育の改善・充実と日々の実践に取り組むことのできる環境づくりを進めることが重要である。