未病とは、疲れやすい、イライラする、手足が冷える、などの症状があるが、西洋医学的には明らかな異常がない状態のこと。健康と病気のグレーゾーンである。漢方では、こうした未病も治療の対象とされる。治療は健常人だけに施されるのではなく、中国の古典には「病気になった人でも、他の病気にならないために未病を治す」と記されている。すなわち、病気を広げないことも治療であり、現代の予防医学に通じる。そのほか老化に伴う症状についても、未病と捉えて、漢方医学では治療対象となる。薬物学書の祖『神農本草経(しんのうほんぞうきょう)』では、365種類の生薬を、上薬(じょうやく)120種、中薬(ちゅうやく)120種、下薬(げやく)125種に分類している。上薬は無毒で長期服用が可能で、不老長寿の効用を持つ生薬で、人参(にんじん)や甘草(かんぞう)などが挙げられる。中薬は体質改善を目的とし、虚弱体質を治すことで発病を抑えるもので、葛根(かっこん)や芍薬(しゃくやく)などが含まれる。下薬は病気を治す効力が強い半面、副作用が生じやすいため、長期間連用しにくいとされる。大黄(だいおう)、附子(ぶし)はその代表である。このように、漢方薬の概念には病気治療だけでなく、病気予防や健康増進の目的も与えられている。