決定論的評価での想定不適当事故(→「重大事故」)の選定には恣意性が避けられないため、あらゆる事故について事故の発生確率と被害の大きさの両者を考慮する確率論的評価方法がある。日本では2000年9月に、原子力安全委員会(Nuclear Safety Commission of Japan)の中に安全目標評価部会が設けられ、事故確率の評価に取り組み始めた。しかし、1999年9月の核燃料加工工場(株)JCOでの臨界事故、2004年8月の美浜原発3号機での配管破断事故など、重要な事故は皆、予想もできない経路を通って起きた。さらに07年7月16日に起きた新潟県中越沖地震は東京電力や国が限界地震として想定してきた地震に比べて3倍も大きな地震で、柏崎刈羽原子力発電所に多大な損傷を与えた。こうした経験は、大事故の発生確率を絶対値として求めることが原理的に難しいことを示している。原子力安全保安院は06年4月から、個別設計の相対的な優劣を判断するための規制に参考として取り入れてきた。しかし、そうした作業をあざ笑うかのように、福島第一原子力発電所事故は起きた。この事故は、従来の決定論的な安全評価に決定的な欠陥があることを明らかにしたし、従来以上に確率論的な評価を取り入れざるを得なくなった。そのため、新規制基準では、炉心溶融確率などを評価するよう求めることになったが、そもそも確率論的安全評価は、いまだに完成した学問になっていないし、永遠にならない。