ポリマーなどの柔軟な素材を使い、ナノからサブミクロンのスケールの突起状構造物が歯ブラシのように並んだものを作製し、これを板状のものに接触させると、突起の先端と壁との間にファン・デル・ワールス力(分子の間に働く非常にわずかな力)が生じる。一つひとつの突起に生じるファン・デル・ワールス力は非常に小さいが、多数の突起が束になることで大きな力を出すことができる。実は、この開発は構造色(ナノ構造による玉虫のような発色)などと同様に自然界に学ぶものつくりバイオミメティックスから生まれたものである。その指先から粘着性の物質を分泌していないヤモリが垂直な壁を登り天井をはうことはよく知られているが、ヤモリの指先には直径200nm(ナノメートル nは10-9=10億分の1)程度の微細構造をその先端に有する数十万本の剛毛が密生していることにヒントを得た。この原理を使うと、粘着材フリーの接着テープが実現できる。2003年にこのテープを最初に開発したのは、10年にグラフェンに関する成果でノーベル物理学賞を受賞したアンドレ・ガイム教授であり、「ゲッコテープ(Gecko Tape ゲッコはヤモリの英語名)」と名付けた。その後、カーボンナノチューブを密集した構造でも、強い接着力が得られることが報告された。微細な突起構造を両面に設けて、静電相互作用を強力にして両面接着テープのように強く接着させる試みもなされている。アメリカンコミックスのヒーロー「スパイダーマン」が夢ではなくなる日が来るかもしれない。