物質を構成する最小単位のクォークとレプトンに質量を与えるとされる素粒子。1978年ごろに標準理論と名付けられた「ゲージ場による電磁気学と弱い相互作用の統一理論」において、現在の素粒子の真空状態を決めているのがスカラー場(scalar field)である。この場が宇宙のいたるところで、ある有限の値をもつことによって、クォークとレプトンがそれとの作用で質量をもつように振る舞うので「質量の起源」を説明する場とも呼ばれる。この考えは1964年ごろに南部陽一郎の真空相転移(→「真空相転移と力の分岐」)の考えを基礎にP.ヒッグスらが提唱した。
このヒッグス場(Higgs field)の励起に当たるヒッグス粒子の探索実験がCERN(ヨーロッパ合同原子核研究機関 フランス語のConseil Europen pour la Recherche Nuclaireに由来)のLHCによって過去十数年にわたって進められていたが、2012年に発見されたと発表された。発生の確率が小さく、かつ質量が正確には推定されていないために、他の粒子である可能性を消去しながらの実験となり、難しい実験であったが、約125GeV(ギガ電子ボルト)の質量のところに生成率のピークが見いだされた。13年のノーベル物理学賞は、1964年にこの粒子を理論的に予言したF.アングレール(エングラー)とP.ヒッグスに授与された。アングレールと共著者であったR.ブラウトは死亡しているので、この栄誉を逃した。
宇宙のインフレーション理論(→「インフレーション宇宙」)でも真空場を導入するが、これはヒッグス場の考えを拡張した仮説であって、標準理論のヒッグス場とは異なる真空場であり、LHCの実験などでは検証できない。