現在の化石燃料依存社会での環境・エネルギー問題の解決の一つの方法は、金属錯体(complex ある金属イオンや原子を中心に別種のイオンや原子、分子が結合した集合体)を触媒として、未来のエネルギー源となる水素(→「水素エネルギー」)分子を自ら取り出す役目を果たす、効率のよい水素発生系(還元反応)と、光合成の光エネルギー変換を手本にした効率のよい酸素発生系(酸化反応)の開発である。酸素分子を酸化的に得る触媒系は、マンガンを主体にしたものも報告されているが、主流はルテニウム触媒である。その反応は2分子の水が酸素1分子、水素イオン4個、電子4個に分解する反応である。一方、水素発生系は酸素発生系と全く別の錯体を触媒として用いなければならず、二つの反応を同じ容器の中で進めるのは不可能だった。最近、この難問を解決するかもしれない新しいルテニウム触媒が報告された。これは一つの触媒分子が水と反応して、熱反応で水素を発生させ、光反応で酸素を発生させるという画期的な反応系である。反応はまず触媒分子が水分子に付加し、熱反応によって水素分子を発生させ、ついで過酸化水素(H2O2)を形成する。この過酸化水素の生成が鍵で、これが不均化反応によって水と酸素に分解する。この酸素形成過程は還元反応である。この方法の実用化までにはさらなる研究が必要であろうが、従来の水の酸化による酸素形成とは逆の経過をとる点がユニークで期待がもてる。