カゴあるいはチューブ構造をもつ分子(ホスト host)が溶液中で他の分子(ゲスト guest)の形や性質を認識して、それらを選択的に分子内に取り込む現象は、ホストゲスト化学(host-guest chemistry)として知られている。卑近な例は小学校で学ぶヨウ素(ゲスト)とでんぷん(ホスト)の反応である。東京大学の藤田誠教授らによると、一辺が約1.5nm(ナノメートル nは10-9=10億分の1)の正三角形のパネル分子とコバルトイオンを混ぜると自己組織化が起こり、パネル分子4個が正八面体構造をもつホストを組み上げる。この正八面体の半分の面はパネルでふさがれ、半分はふさがれていないので、ゲストが中に自由に出入りできる構造をもっている。この正八面体は、コバルトイオンを介して頂点を共有した三次元網目構造をもつ細孔性ネットワーク錯体(complex ある金属イオンや原子を中心に別種のイオンや原子、分子が結合した集合体)を形成し、結晶として析出してくる。この結晶をフラーレンの飽和溶液に浸すと、結晶の隙間にフラーレンが吸い込まれる。このときC60とC70の混合溶液を用いると、後者が選択的に取り込まれ、いわば「結晶スポンジ」の性質を示す。この取り込みは細孔が真空状態でなくても起こる点で画期的で、また正八面体の外側の空間にフラーレンを、正八面体の内側の空間に別のゲストを取り込むこともできる。フラーレン自身が金属イオンを取り込めることを考えると、この結晶スポンジは広い可能性をもっていそうである。