生体系で重要な働きをするたんぱく質やDNAは分子ごとに個性をもっていると見られており、一分子測定による研究が盛んである。1970年代後半に可視光を用いた一分子測定がはじまり、チャネルたんぱく(channel protein 細胞膜上にあり、親水性の小さな穴を通じて、特定のイオンを透過させるたんぱく質)一分子のイオン電流が測定された。その後日本で、蛍光分子で標識されたDNAなどの一分子の蛍光顕微鏡による観測が始められてから大きく進展した。最近、たんぱく質などに数nm(ナノメートル nは10-9=10億分の1)の極微結晶を標識し、そのX線回折を測定してたんぱく質一分子のわずかな動きを数ナノ秒の時間で観測する研究がなされている(→「X線回折法」)。また、金属ナノ粒子二量体(二つつながった状態)の間隙に吸着された分子が通常の100兆倍もの強度のラマン散乱(Raman scattering 散乱光の中に入射光と異なる分子の振動と関連した波長成分が含まれる現象)を示すことを利用して、一分子ラマン分光測定の試みもなされている。DNAの塩基配列を読み取るためのDNAシークエンサー(DNA sequencer)の需要の高まりもこの分野の発展に寄与している。