終末に際して、キリストが再臨し、千年間この世を統治すると信じられた神聖な王国。ここから、正義と平和の支配する理想的世界、ユートピアを指して用いられることもある。「新約聖書」の「ヨハネの黙示録(20:6)」に記された、イエスの教えを伝えたために殉教した人々などが「生きかえって、キリストと共に、千年の間、支配する」という言葉による。千年王国思想は古代ユダヤ教の預言者の終末論的な歴史観に基づいた救世主(メシア)待望観に由来し、イエス・キリストの福音運動から原始キリスト教に受け継がれ、ローマ帝国下で迫害された初期キリスト教徒らに見られたが、公認されるに及んで衰退していった。しかし、後には異端運動や、トーマス・ミュンツァーの指揮したドイツ農民戦争などの反体制運動にも影響を及ぼし、またモルモン教(末日聖徒イエス・キリスト教会)やエホバの証人(ものみの塔聖書冊子協会)など今日の新宗教にも受け継がれている。さらに千年王国運動は、欧米の植民下にあってキリスト教が伝道され、苦難・抑圧を強いられた地域での反植民地闘争や、預言者や祖先の霊などが文明の利器を満載した船や飛行機に乗って現れるというメラネシアのカーゴ・カルト、踊ることによってかつての平和な楽土がよみがえるとする北米先住民のゴースト・ダンス、あるいは漢民族による平等社会の建設を目指した中国の太平天国の乱など、異文化とも融合し、展開された。