インフレーションの進行によって民間の経済主体(家計、企業など)が保有する通貨(→「マネーストック」)の価値が実質的に目減りして、政府による課税と同様に民間から政府(および中央銀行)への所得移転を生じること。同時に国債の実質的価値も目減りすることから、政府の実質的な債務負担を軽減する効果がある。第二次世界大戦後の日本では、1949年の小売物価指数が戦前(1934~6年平均)と比べて240倍に高騰するという激しいインフレーションによって、猛烈なインフレ課税が行われ、戦時中に累積した国債残高問題がなし崩し的に解消された。日本銀行が2013年春以降推進している量的・質的緩和(→「異次元緩和政策」)は、消費者物価指数前年比で2%のインフレ目標(→「インフレ目標政策」)を掲げ、それを達成するために大量の国債買い入れを続けている。その結果、長期国債10年物利回りが一時マイナスとなるなど、史上最低水準の近辺で推移している。このことから、戦後の経験と対比すればごく軽度ではあるものの、暗黙裡にインフレ課税を実施しようとしているといえる。インフレ目標が成功をおさめる一方、現金(→「現金通貨需要」)および金利がほぼゼロである要求払い預金はもとより、定期預金についても10年物でたかだか0.1%未満の金利しかつかない状況が続けば、通貨の保有に対してインフレ率にほぼ相当する分の課税が行われることになる。一方、インフレ目標達成後に預金金利を含めた金利水準を全体としてインフレ率見合いで上昇させる形での出口戦略が採られれば、その分だけ(金利ゼロの現金を除いて)インフレ課税は回避されることになる。