安倍晋三内閣による安全保障上の措置に関する法制度の改正または新設に向けた動き。2014年7月1日、安倍内閣は「国の存立を全うし、国民を守るための切れ目のない安全保障法制の整備について」を閣議決定した。同年5月の安保法制懇(安全保障の法的基盤の再構築に関する懇談会)の報告に基づき、与党協議と政府内の検討作業を重ねてまとめた文書であり、(1)「武力攻撃に至らない侵害への対処」では、日本を取り巻く安全保障環境が厳しさを増しているとの前提のもとに、自衛隊と国内関係機関や米軍との連携強化を、(2)「国際社会の平和と安定への一層の貢献」では、国連が集団安全保障上の措置をとった際の日本の支援活動や、PKO(国連平和維持活動)など国際的な平和協力活動に伴う武器使用に関する法整備を進める方針を明らかにした。そして(3)「憲法第9条の下で許容される自衛の措置」では、集団的自衛権の行使を可能とする憲法解釈の変更を打ち出した。
すなわち、日本を取り巻く安全保障環境の変化に対応し、国民の生命と財産を守るためには、「これまでの憲法解釈のままでは必ずしも十分な対応ができないおそれがある」との基本認識に立ちつつ、政府の憲法解釈の論理的整合性と法的安定性を図るために、日本がとることのできる行動を以下のように定義している。「我が国に対する武力攻撃が発生した場合のみならず、我が国と密接な関係にある他国に対する武力攻撃が発生し、これにより我が国の存立が脅かされ、国民の生命、自由及び幸福追求の権利が根底から覆される明白な危険がある場合において、これを排除し、我が国の存立を全うし、国民を守るために他に適当な手段がないときに、必要最小限度の実力を行使する」(自衛の措置としての武力の行使の新三要件)。これは「従来の政府見解の基本的な論理に基づく自衛のための措置」として、憲法上許容されると考えるべきとの判断を示したのだった。
以上の活動を自衛隊が実施するには根拠となる国内法の整備が必要であった。自由民主・公明両党は第189回通常国会の開会後、15年2月13日に協議を開始した。「国民の命と平和な暮らしを守り抜くために、あらゆる事態に切れ目のない対応を可能とする」法案の策定に向けて、政府が両党に提示した検討課題と対象となる法は以下の通りである。第一に、グレーゾーン事態については、米軍以外の軍隊、たとえばオーストラリア軍などの武器等を防護する必要性から、自衛隊法を改正し防護対象を拡大することが考えられている。第二に国際社会の平和と安定への貢献については、米軍以外の軍隊への支援活動、PKOの活動の拡大や武器使用権限の見直しなどを念頭に、自衛隊法、周辺事態法、船舶検査活動法、PKO法の改正が挙げられた。また、国連決議を条件とせずに自衛隊が支援活動を行えるよう、旧テロ対策特措法や旧イラク特措法を恒久化した法の制定が考えられている。
第三に集団的自衛権については、「武力行使の新三要件」を踏まえて自衛隊法、武力攻撃事態法、米軍行動円滑化法、外国軍用品等海上輸送規制法、捕虜取扱法などの改正が必要だとされている。(→「「安保法制懇」報告書)」)