約2000年前の中国の古典には、妊娠中や産後の病気についての記述があり、妊婦にも漢方薬を使用してきたことがわかっている。しかし、妊娠中の投与に関する安全性は臨床経験に基づくものが多く、科学的にはいまだ確立されていない。漢方医学では、妊娠中は体力などが低下した虚(きょ)の状態に傾き、水(すい)のめぐりも悪くなりやすいと考える。出産後は、血(けつ)や気(き)の異常もきたしやすい。実際の臨床では、安胎薬として当帰芍薬散(とうきしゃくやくさん)が頻用されてきた。つわりが悪化して全身症状に至る妊娠悪阻(にんしんおそ)には小半夏加茯苓湯(しょうはんげかぶくりょうとう)、妊娠後に起こるせきには麦門冬湯(ばくもんどうとう)なども用いられる。妊娠中にかぜを引いた場合は、生姜(しょうきょう)、シナモン、ナツメ、紫蘇葉(そよう)など、日用の食材にもなる生薬を含む桂枝湯(けいしとう)や香蘇散(こうそさん)などが使用される。一方、大黄(だいおう)などの下剤は、流早産の危険があるため、妊娠時には留意すべきとされている。