原子核スピンのアップとダウン状態を「状態0」と「状態1」とする量子ビットを用いる量子計算の方法で、核スピンの読み出し・書き込み・変換に核磁気共鳴(NMR ; nuclear magnetic resonance)を用いる量子計算(→「量子コンピューティング」)。重力がかかったコマが首振り回転運動をするのと同じく、磁場がかかった原子のスピンは歳差運動(precession 回転軸が円を描くように周期運動する現象)をするが、首振りの周期は波長がcm~m程度の電磁波、すなわちマイクロ波の周期と一致する。そこでマイクロ波のパルスを原子に照射すると、照射されている間だけ行われる歳差運動によりスピンに量子情報を書き込んだり読み出したりできる。このとき、ただ一つの原子の核磁気共鳴は弱すぎるので、アボガドロ数(約6.02×1023個)オーダーの同種原子を用いる。しかし、それでは量子ビットの種類としては一種しかないので、いくつか(n個とする)の原子が集まった同種分子から成る液体や固体を用いる。したがって、分子一つが量子コンピューターであり、同じ量子コンピューターがアボガドロ数凝集したものである。使える量子ビットの個数はnである。2001年にマサチューセッツ工科大学(MIT)で7量子ビットの量子計算により「15=3×5」という素因数分解に成功したことで脚光を浴びたが、量子ビットの個数を増やしたとき、初期化(卓上計算機で計算を始める前のメモリークリアに相当する作業)に時間がかかる欠点が予測されており、さらなるブレークスルーが必要である。