原子層(原子膜)1枚あるいは数枚からなる究極のナノスケール(10億分の1mスケール)薄膜材料で、原子膜材料ともいう。炭素のシートであるグラフェンがその代表格であるが、さまざまな原子層材料が昨今登場している。炭素をシリコンやゲルマニウムに置き換えたシリセンやゲルマナン(germanane)も研究が進んでいる。いわゆる層状物質、例えばカルコゲナイド系原子層(layered chalcogenide materials 二硫化モリブデン、二硫化タングステン、二セレン化タングステンなどに代表される単原子層、もしくは数層物質)も、モリブデンやタングステン層の両側に硫黄やセレンが付いた原子層で剥離(はくり)することができ、二硫化モリブデンは原子層トランジスタ(→「二硫化モリブデントランジスタ」)として、また二セレン化タングステンはスピン(電子の自転)自由度を電界で制御できる原子層として着目されている。絶縁体についても、六方晶窒化ホウ素などは原子層で扱える。
原子層の垂直方向へは通常の結晶のような結合がないため、二つの原子層の構造が異なっていても、ファン・デル・ワールス力(分子の間に働くごく弱い凝縮力)による弱い結びつきで重ね合わせることができる。たとえば、粘着テープを黒鉛に貼り付け、剥がすことでグラフェンを取り出し、それと同じ方法で剥離した六方晶窒化ホウ素原子層の上に載せることを繰り返すと、原子層絶縁体と原子層半導体が積層した究極の超薄膜構造である原子層ヘテロ構造(atomic layer heterostructure)や原子層超格子(atomic layer superlattice)を作製することができる。一方の原子層はグラフェン、他方は二硫化タングステンで構成された材料も実現され、太陽電池やフレキシブルデバイスへの応用が期待されている。今後、さまざなな原子層を組み合わせて、新しい物理現象や機能を追究する研究が、「原子層エンジニアリング」として進展することが期待される。