組織工学とは、1993年にロバート・S・ランガー博士とジョセフ・P・バカンティ博士が提唱し、機能を失った臓器や組織を、生命科学や工学の技術により新たに作り出す試みを指す。近年の疾病治療として、細胞の再生を促進し、欠損した組織を復帰させることで機能回復を図る再生医療などはそのよい例である。心筋梗塞(こうそく)などで失われた心筋や、角膜異常による失明の治療に使われる角膜細胞シートなど、細胞シートを使った移植治療はすでに始まり、成果をあげている(→「細胞シート工学」)。
iPS細胞を使った治療でいえば、年齢とともに網膜の下にある網膜色素上皮の下に老廃物が蓄積してくることで視力が著しく低下する加齢黄斑変性の治療に用いる網膜色素上皮細胞シートの移植臨床研究が2013年からはじまっている(→「網膜再生」)。また、高分子材料を細胞成長の足場として利用する細胞成長用足場材料のほか、iPS細胞から立体組織を作製する研究も進んでおり、今後は、iPS細胞ストックを利用したり、スフェロイド(微小なかたまり)状にした細胞を所望の三次元構造に従って立体的に配置するバイオ3Dプリンターなどの技術を用いるなどして、内部に血管構造をも有する立体的構造を構築する組織工学が広がりつつある。