この宇宙の原子は、プラスの電荷の原子核の周りをマイナスの電荷の電子雲が覆った構造となっている。対して、マイナスの原子核をプラスの電子雲が覆う反原子は存在せず、宇宙の端までそうであることも宇宙観測でチェックされている。一方、現在の場の量子論(→「真空エネルギー」)にもとづく素粒子理論では、粒子とその反粒子は対等に振る舞うべきである。しかし、現実の素粒子の世界が完全対称でないことの原因は当面傍らにおいて考える。A.サハロフは1966年に、CP対称性の破れ、バリオン(奇数個のクォーク)数非保存、熱平衡(→「マクロな法則」)からのずれであるサハロフの三条件(Sakharov conditions)がそろえば、宇宙の物質非対称が発生することを示した。クォークと反クォークではバリオン数が正反対であるが、低温になっての「対消滅」前にバリオン数の差に10億分の1の差があれば、「差し引き残額」として残存する。未発見のバリオン数非保存反応でのCP対称性の破れにも小林-益川理論が活躍すると期待できる。