地球規模で深刻化していく三つの課題
現在、三つのことがますます明白になってきている。
まず一つ目は加速度を増す地球規模課題の深刻さである。
国際NGOのオックスファム(Oxfam International)は毎年格差に関する報告書を出している。2014年に最富裕層85人が、世界人口の下位36億人分と同等の富を所有していることを公表して世間を驚かせた。さらに驚くべきは、その最富裕層の数が、2015年には62人に、2016年には8人にまで減少しており、ほんの一握りの富裕層が富を独占している状況がさらに進行していることである。
オックスファムはその要因として、大企業や富裕層による租税回避、低賃金労働の強制、ならびに彼らが有利になるように政治に影響を与えていることを指摘している。
地球環境問題に目を転じてみると、たとえば気候変動による悪影響は誰の目にも明らかになってきた。
実際に国連国際防災戦略事務局(UNISDR:United Nations International Strategy for Disaster Reduction)の報告では、1995年以降20年間で、洪水や暴風雨などの異常気象により死亡した人の数は60万6000人、さらに41億人が負傷、家屋喪失、あるいは緊急支援の対象となり、異常気象に起因する経済的損失は合計で1兆8910億ドル(213兆6830億円。1ドル=113円で計算。以下同)に上ったという。
また、国連児童基金(UNICEF:United Nations Children’s Fund)は、温暖化の影響で5億人以上の子どもたちが洪水や干ばつの危機にさらされていると警告している。
気候変動の今後について、イギリスの気象庁は2014年に、(1)ヨーロッパ、アジアのいくつかの地域および北米の一部で、年間最高気温が6℃またはそれ以上に上昇する、(2)アジア地域の70%では洪水発生のリスクが上昇する、(3)南米、オーストラリア、アフリカ南部のいくつかの地域で、干ばつが起こる日数が20%以上増加する、(4)中米でのトウモロコシの収穫量が12%まで減少する、(5)世界各地で海水温度が4℃まで上昇する、(6)海面上昇のため、特に東、東南、南アジア地域で、数百万人が浸水被害に遭う、と予測している。
高温、洪水、山火事、干ばつ、海面上昇などの気候変動による影響はいまや否定しがたいのみならず、現実に人々の生命を奪っている。そして、早急かつ大胆な手を打つことができなければ、気候変動はさらに悪化し、その悪影響は今後ますます大きくなるのみである。
これらは地球規模課題のほんの一部にすぎない。地球環境問題一つを取ってみても、気候変動以外に、森林破壊、生物多様性の喪失、水資源の汚染と不足、大気汚染など数多存在する。その他、拡大が懸念される感染症、世界で頻発するテロ、サイバーセキュリティの問題、人権侵害など国際社会が至急かつ徹底的に対処すべき課題は枚挙にいとまがない。
地球規模課題を解決するための巨額の資金がまったく足りない
このような地球規模課題を解決するためには、巨額の資金が必要となるが、昨今ますます明白になってきたことは、その必要額が大幅に増大しているにもかかわらず、供給がまったく追いついていないという資金不足の問題である。これが二つ目の現実。
2010年の時点で、地球規模課題を解決するために必要な資金は、「国連ミレニアム開発目標」(MDGs: Millennium Development Goals)の達成のために、現行の政府開発援助(ODA: Official Development Assistance)に加えて年間500億ドル、気候変動対策に年間1950億ドル、途上国の食糧問題対策には年間150億~250億ドルなど、トータルで年間3240億ドル(36兆6120億円)から3360億ドル(37兆9680億円)になるとされていた。
ところが、2015年末に期限を迎えたMDGsに代わる新たな指標として、「持続可能な開発目標」(SDGs: Sustainable Development Goals)が設定されたが、SDGsの途上国全体での取り組みに、年間3.3兆ドル(372兆9000億円)~4.5兆ドル(508兆5000億円)の資金を要すると試算され、額が大幅に増加している。
2010年時点での試算が36兆6120億~37兆9680億円であったのに対し、その5年後の2015年ごろの試算では、372兆9000億~508兆5000億円と10倍以上に増加している。その増加の理由の一つは、MDGsが8の目標、21のターゲットであったのに対し、SDGsは17の目標、169のターゲットと大きく目標とターゲットが拡大したことが挙げられる。また、年々地球規模課題が悪化していることに伴い、対策費用が増大していることも考えられる。しかし、いずれにしても、地球規模課題を解決するためには、これだけ巨額の資金が必要なのである。
他方、資金の供給サイドは経済協力開発機構(OECD)によると、2010年の世界のODA総額が1290億ドル(14兆5770億円)なのに対して、2015年の総額は1316億ドル(14兆8708億円)と、わずかにしか増えていない。