戦後日本の義務教育は、平和・民主主義と機会均等を指導理念とし、6・3制、無償制と通学区域制、義務教育費国庫負担制度と学習指導要領、教科書検定・採択制度による全国的水準の確保などを特徴として発展してきたが、最近までその理念・制度の基本が変わることはなかった。しかし近年、教育行政の地方分権改革や、学校評価・学校ボランティア制度・地域運営学校などによる保護者・地域住民の学校参加が進んでいるが、もう一方で、「個性・能力に応じた教育」や「知識基盤社会」に対応できる学力の形成が重要だとして、教育基本法の改正とそれに伴う教育三法(学校教育法、教員免許法、地方教育行政法)の改正、習熟度別学級編成・中高一貫校・学校選択制や一部の教育特区校の導入・拡大などに見られるように、理念・制度の能力主義的・市場原理主義的再編が進められている。全国学力テストや教員免許更新制も導入・実施され、また、義務教育費国庫負担金も2分の1から3分の1に削減されたことにより、教育の地域格差の拡大も危惧(きぐ)されている。2009年9月に発足した民主党政権は教育予算の増額、教職員の増員の方針を打ち出し、文部科学省は、閣議決定「新成長戦略」(10年6月)、中教審提言(10年7月)などを踏まえ、10年8月に「新・教職員定数改善計画(案)」(公立小・中・高校)を策定し、同年12月の財政当局との大臣折衝により、義務教育段階については、4000人の教員増(純増300人を含む2300人の定数改善と1700人の加配定数活用)を行うことが合意され、11年度より小学1年の35人学級が実現した。また12年度からは、教員定数に係る義務教育標準法を改正せずに加配措置を行うことから、小学2年の35人学級の実施が予定されている。生徒指導面の課題の複雑化・多様化や新学習指導要領の円滑な実施および学力形成面での課題などに対応していくためにも、予算増・教員増は不可欠だが、低賃金・不安定雇用の非常勤の割合を増やしていくという近年の傾向は、非常勤講師の熱意と力量の維持・向上の難しさや専任教員の負担増という点で問題が多い。他方、10年度から実施された高校無償化については、厳しい財政状況の下で教育予算の有効利用を図るためにも家計収入による制限をすべきとの意見や、事実上、教育バウチャー制と同じことになり、高校入試競争・私立中学受験の過熱や新たな学校格差・教育格差を引き起こす危険性があるから、経済的困難層に限定すべきだとの意見もあり、11年8月には民主、自民、公明の3党によって、12年度以降の制度のあり方について政策効果の検証と必要な見直しを検討することが合意された。