物質中のスピンの応答における位相拡散(デコヒーレンス)時間を測定する手法。スピンとは磁石の最小単位であり、磁場をかけると磁石は首振り運動を行う。これは数式的にはコマの首振り運動と同じ現象であり、また位相情報として有限の時間記憶される。その記憶の減衰時間は「T2」と書かれ、横緩和定数(transverse relaxation constant)と呼ばれており、この時間以内なら、量子リピーターの手法を用いることなく、量子情報を記憶できる。物質中には電子スピン(electron spin)と核スピン(nuclear spin)があり、電子スピンのT2は一般にμs(マイクロ秒 μは10-6=100万分の1)以下と短いが、核スピンのそれは数日に達するものもあるので、量子メモリー(quantum memory)として期待されている(→「量子メモリー」)。しかし、物質中では周りの原子たちとの配置の違いが影響し、実際はT2より短い時間で位相情報を失う。ところが、フォトンエコーと同じく、ある時点ですべてのスピンの首振り運動の位相を反転してやると、配置の違いによる見かけの位相拡散はキャンセルされ、純粋なT2だけを正確に測定できる。位相の反転は「πパルス」と呼ばれる磁場パルスを照射することにより行う。これがスピンエコーである。量子情報処理においては、この手法を利用して物質の見かけの位相拡散をキャンセルし、本来のT2の限度の目いっぱいまでを量子メモリーとして利用することも指す。