量子ビットの状態の保持が可能なメモリー。環境との相互作用による量子ビット情報の消失が微小であることが望まれる。核スピン(原子核の自転のようなもの)はエネルギー緩和時間や位相緩和時間が1時間や1日に匹敵するほど長くできることがあるため、量子メモリーとして有望視されている。しかし、光子など他の量子ビットとの間で量子情報のやりとりを確実にかつ誤差なく行うことも重要であるため、固有状態を二つもつ二準位原子やイオントラップも研究されている。確実にかつ誤差なく量子情報のやりとりを行うことは当面最も力を入れて開発すべき課題である。それができれば、多少保持時間が短くても、量子誤り訂正を用いて量子情報の定期的リフレッシュが可能である。現行のコンピューターにメモリーが不可欠であるのと同様に、量子コンピューターに量子メモリーが不可欠であろうことはすぐ想像がつくが、ことさらメモリーが必要なさそうな量子通信においても量子メモリーが不可欠である(→「量子通信理論」)。それは、情報の損失による伝送距離の限界を破るために量子リピーター(量子情報を遠方へ送るための中継機)を用いることが不可欠であり、かつ量子リピーターには量子メモリーと量子非破壊測定(QND測定〈quantum nondemolition measurement〉 特定の物理量の観測値に不確定な影響を与えない量子測定)が不可欠であるからである。