急収縮した証券化市場の悪影響
アメリカでは、証券化市場が一般消費者や中小企業が資金を調達する上で重要な役割を果たしている。例えば、消費者向け融資の約4分の1は、融資債権を裏付けとした資産担保証券(ABS)の発行によって資本市場から調達された資金が占めている。即ち、ノンバンクなどは、消費者向けの小口のローンを束ねて、そこから将来返済を受けることができる債券を、主に機関投資家向けに発行するわけである。また、企業の保有する売掛債権を裏付けとするABSの残高も、2007年末には過去最高の1114億ドルに達し、企業の資金調達においても証券化の活用は進行していた。だが、サブプライム問題の勃発後は、投資家による証券化市場への信頼が失墜し、証券化商品への投資意欲が大幅に減退したことから、ABSの発行額は急減した
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この連載の前回では、リーマン・ブラザーズの破綻(はたん)が、コマーシャルペーパー(CP)市場の混乱を招き、企業の短期資金調達に悪影響が及んだことを述べたが、加えて証券化市場における資金調達機能も麻痺したことで、アメリカでは消費者・企業双方に資金が潤滑に回らない事態となった。アメリカ連邦準備制度理事会(FRB)はこの資金繰り問題を深刻にとらえ、以下の流動性支援策を矢継ぎ早に打ち出した。
CP買い入れで資金調達は自律的回復
2008年10月27日、FRBはCP市場の流動性支援のため、CPファンディング・ファシリティー(CPFF)を設定した。これは、ニューヨーク連銀の設置した特別目的事業体(SPV)が、最上位の短期格付けを取得した満期3カ月のCP及び資産担保CP(ABCP)を発行会社から買い入れる仕組みで、金融機関などを介さずFRBが直接、発行会社に手元資金を供与するという非常手段である。CPFFの導入が功を奏したこともあって、それまで悪化していた最上位格付けのCPの発行条件は、11月には9月のリーマン・ショック前の水準に戻った。加えて、CPFF導入3カ月後の当初、FRBが買い入れたCPの借り換え状況を見ると、CPFFによる再買い入れではなく市場におけるCPの発行を選んだ会社も多く、高格付け会社の短期資金調達には自律的な回復が見られる。
一方で、中位以下の格付けのCPについては、発行条件は08年末からだいぶ改善したものの、発行額の水準は停滞したままであり、格付けの高低によって明暗が分かれた。ただし、格付けの低い会社でも、金融機関の融資枠(クレジット・ファシリティー)の積極活用や社債発行による資金調達の長期化など、資金を確保するために様々な工夫が行われている。
TALF導入で証券化市場回復の期待
ABS発行額が月間5億ドルまで落ち込む中で、FRBは2008年11月にターム物ABS融資ファシリティー(TALF)の導入を発表した。これは、09年1月以降に発行された最上位格付けのABS保有者に対し、ニューヨーク連銀がそれらを担保に満期3年のローンを提供する仕組みである
TALFに関しては、オバマ政権の下で重要施策の一つに位置付けられ、融資総額が1兆ドルに拡大されるなど、内容が拡充された。TALFの創設を織り込んでか、09年初よりABSの発行条件が改善すると同時に、発行額も1月には33億ドルまで増加した。3月には、17日の初回の入札を控え、日産自動車、フォード、シティグループが相次いでABSを発行した。初回の入札では、予想を下回る47億ドルの借り入れの応募しかなかったが、今後更に応札が増えていくことが期待されている。
第3回は、アメリカの消費者や中小企業の資金調達にとって、証券化市場の果たす役割がいかに大きいかということと、FRBがCP市場と証券化市場を再活性化させるためにどのような政策を採ったかについて解説した。FRBの果敢な流動性支援策により、消費者・企業の資金繰りにはわずかではあるが改善の兆しが見られる。以上、第3回までは市場からの資金調達を巡る動きについて中心に述べたが、もう一方の金融の柱である銀行の貸出余力の回復も重大な課題である。最終回では、アメリカの銀行経営の現状と展望に関して、金融機関規制の今後の行方も含めて考察したい。