金融から実体経済へ重心が移動
現在、世界経済は大きな転換点を迎えている。まず、金融市場が主役の経済から実体経済が中心の経済社会になる。つまり、日常消費するモノやサービスが中心となり、金融市場や金融機関の存在感は徐々に後退する。金融市場は、リーマン・ショックでとどめを刺され、いったん金融市場は完全に機能不全となった。しかし、現在では、機能を回復したように見え、金融市場は、徐々に危機前の姿に戻るかのように思われている。金融市場の内部ではミニバブルを作り、そして、崩壊させ、利ざやを稼ぐゲームが金融機関やファンドにより行われているが、それが実体経済に与える影響は、金融危機前に比べて、格段に低くなった。すなわち、金融市場の経済における位置が変質しているのである。その理由は、第一に、消費者が、金融に頼った消費を行うのをやめるからであり、第二に、金融機関も、消費者や企業に、やみくもに多額のローンを提供するのをやめるからである。その結果、実体経済が、金融により膨らまされていた部分が縮小した後は、金融市場と実体経済のリンクは著しく弱まる。
すなわち、個人は、サブプライム・ローンなどにより、多額の借金による住宅投資、高額商品消費をしてきたし、また、クレジットカードを乱用し、日常的にも、過度に高水準の消費を行ってきた。このような消費スタイルを、消費者は、もはや望まないし、金融機関としても、許さないからである。
危機が去り、経済が安定化しても、危機前のような消費スタイルにも戻らないし、金融機関もローンを供与しない。それは、バブル期にしか、儲からない金融機関の戦略であったからであり、消費者はいったんショックを受けると、当分、楽観的にはなれないからである。
世界中で、消費財市場にまで及ぶような大規模なバブルが起きない限り、そして、それを誘発するような融資が起きなければ、大規模なバブルは当面起きない。ある意味の縮小均衡から抜け出せず、バブルとはならないだろう。
オーバーシュートした経済調整
一方で、金融経済の色彩は強まるだろう。金融市場も金融機関も主役ではなくなるのに、なぜ金融経済なのか? それは実体経済の動きが、金融市場のような動きとなるからだ。2008年9月のリーマン・ショック後、世界経済は真っ逆さまに墜落した。急降下が、金融市場だけでなく、世界中の実体経済にも同時に起きたのが、今回の特徴だ。日本を始め多くの世界的なシェアを持つメーカーは、軒並み前年比50%減の売り上げに直面した。経済規模が突然、半分になってしまったのである。
この原因は、経済が金融化していることにある。つまり、金融市場とは資産の市場であって、取引が頻繁に行われることもあり、調整が一気に進むのが特徴であるが、実体経済の調整も、金融市場的に行われるようになった、ということである。金融市場の調整が早い理由は、二つで、将来の価値を織り込んだ資産の市場であることと、取引(売買)が頻繁に大量に行われ、価格が常に更新され続けることである。
しかし、一方、調整が極端に起こりすぎ、オーバーシュート(行き過ぎ)するリスクもあり、実際、金融市場と同じように、実体経済がまさにオーバーシュートしたのである。
金融市場化が生んだ急激な景気回復
まさに09年3月以降の景気の一時的な急回復は、このオーバーシュートの反動だった。08年の秋に、最悪の事態に備えて世界中の企業が一気に在庫調整を進めた。だから、最先端の経営をしている組織は生き残りには成功した。売り上げ半減でも生き残れたのは、多くの大企業の経営能力が格段に上がったことの証しだが、この余波で、中小や柔軟性に欠けたところ、財務的な柔軟性がなかったところは壊滅した。そして、この危機を潜り抜けた後、各国政府の財政政策により、世界的な需要が一時的にせよ回復してくると、各企業は一気に増産へ動いた。在庫が極限にまで減っており、かつ、オーバーシュートして調整しすぎているため、在庫が必要以上に減っていることから、需要の増加に全く対応できず全力での増産となった。したがって、財政出動による急回復以上に、在庫調整の速度が異常に早く、また激しく大きく振れるようになったため、09年3月以降の急回復を演出したのである。これが、実物経済の動きが金融市場的な動きになったことの端的な例である。
(後編に続く)