復興は最優先課題だが
2011年9月2日に誕生した野田佳彦内閣は、最初の閣議で東日本大震災復興対策本部による「東日本大震災からの復興の基本方針」(7月29日)を踏まえた第3次補正予算の編成を各閣僚に指示した。また、第187回国会での所信表明演説(9月13日)において、東日本大震災からの復旧・復興を最大かつ最優先の課題と位置付けた。その上で、復旧・復興のための財源については、次の世代に負担を先送りすることなく、今を生きる世代全体で連帯し、負担を分かち合うとしている。また、歳出の削減、国有財産の売却、公務員人件費の見直しなどにより財源を捻出するとした上で、時限的な税制措置について、具体的な税目や期間、年度ごとの規模などについての複数の選択肢を多角的に検討することも明らかにしている。
このように野田内閣の登場によって、遅れていた東日本大震災からの復旧・復興対策がようやく本格的に始まったといえるかもしれない。しかし、衆議院での多数派が参議院では少数派であるというねじれ国会の状況は変わらないことから、復旧・復興対策を具体的に行うための法案が成立しない懸念がある。しかも、増税に関し、政権与党の内部でも意見の違いが大きいという深刻な問題もある。
したがって、野田内閣は本当に東日本大震災からの復旧・復興ができるのであろうかという疑問が生じる。その疑問を予算の動きから検討してみる。
大赤字の日本財政
まず、一番重要なことは、1995年1月の阪神・淡路大震災の時に比べ、日本の財政は借金が一段と増加し、2011年度末の時点で国債残高は668兆円(建設国債247兆円、赤字国債421兆円)まで積み上がり、資金的余裕が大幅に低下してしまったことである。その上、08年9月のリーマン・ショック以降、日本の財政は景気対策のため無理な運営を強いられてきた。たとえば、不況が深刻になった09年度当初予算は88.5兆円だったのが、大型の補正予算により決算は102.6兆円まで一気に拡大した。10年度当初予算は92.3兆円まで縮減されたが、補正後予算では再び拡大し96.7兆円となった。このように大規模な補正予算を組まなければならない厳しい状況が続いている。
東日本大震災は11年3月11日に発生したが、当時の菅直人内閣の力不足が災いし、10年度中の追加的補正予算は組まれなかった。その代わりに、11年度当初予算が執行され始めたばかりの4月11日に11年度第1次補正予算が閣議決定され、4月28日に国会に提出された後、5月2日にようやく成立した。
この第1次補正予算では、東日本大震災関係経費は4.0兆円が計上されているが、子ども手当などの既定経費の軽減が3.7兆円も行われたことにより、両者を合計した補正予算額は3051億円に過ぎなかった。第1次補正予算では復旧のための予算規模が小さすぎることから、時間をおかず第2次補正予算が7月25日に成立した。この第2次補正予算も2.0兆円の規模にとどまった。
したがって、千年に一度の大震災であったにもかかわらず、第1次と第2次の補正予算の純歳出規模は、2.3兆円に過ぎなかった。確かに、復旧・復興のための対策に限定すれば6.0兆円になるが、それでも予算額は少ない。この予算額の少なさこそが、がれきの撤去をはじめとする大震災からの復旧事業が十分にできていない最大の原因である。
東日本大震災の被害額については内閣府により推計されているが、それによると建築物等10.4兆円、ライフライン施設1.3兆円、社会基盤施設2.2兆円などを含めて16.9兆円となっている。この推計額は少なすぎるとの見方もあるが、少なくとも被害額はこれだけある。この額を上回るだけの予算を計上しない限り、公共事業をはじめ復旧・復興事業は推進されないのである。
いかにして財源を確保するか
これらの補正予算と並行して6月20日に東日本大震災復興基本法が成立し、7月29日には東日本大震災復興対策本部より「東日本大震災からの復興の基本方針」が出されている。この基本方針では復興期間を10年間とし、最初の5年間を集中復興期間と位置付けている。10年間の復旧・復興の予算規模は少なくとも23兆円であり、集中復興期間は19兆円程度とされているが、この19兆円の中には第1次補正予算の4兆円と第2次補正予算の2兆円も含まれている。したがって、5年間の残りの額は13兆円になる。この13兆円の追加支出についての財源は、3兆円を歳出削減や税外収入、10兆円を臨時増税によってまかなうこととされているが、その中身はまだ決定されていない。
政府税制調査会からは12年度から法人税率をいったん5%引き下げ、3年間に限定して4%強増税しなおすという案が出されている。ただし、これが法律として実施される見通しはまだ立てられていない。
このように増税案を中心として財源の手当てが進められようとしている。しかし、社会資本の整備をはじめ生活基盤の整備のための財源であることを前提とすれば、建設国債の発行を優先するべきである。そして、60年間での償還という通常の方式を適用することで問題はない。だが、政府は国債を発行する場合は臨時国債とし、10年間で償還する方式を適用する案を検討している。
臨時国債の場合、償還のための財源は増税でまかなうことによって、現代世代が大震災の財源を負担することになる。しかし、復旧された道路などは遠い将来世代も利用することを考えれば、その財源を現代世代だけが負担するべきであるという理屈は成り立たないはずである。
なぜ、このような変則的な財源負担が考えられたのかを推測すれば、やはり国債残高が大量に累積していることから、これ以上の累積を嫌ったことが挙げられる。あるいは、復旧・復興のための財源であれば増税を受け入れてもよいとする国民の意識の変化に乗じたとの見方もあり得るであろう。
しかし、復旧・復興の財源を現代世代の増税に求めるというやり方は、現代世代の負担が重くなりすぎるので弊害のほうが多い。さらに、視点を変えて、日本でデフレが続いている原因は貨幣の発行量が少ないためであるとするならば、日本銀行に国債を引き取らせて貨幣の発行量を増加させる方法も考えてよいであろう。今後、野田内閣が避けなければならない事態は、増税ができないからといって復旧・復興を先送りすることである。しかし、現実にはその道筋に進む可能性が否定できない。