「防衛費倍増」をめぐる世論の反発
防衛関連費の予算を、現状の約2倍に増額する議論が行われている。戦後ながらく対GDP比1%程度で推移してきた予算規模を、NATOにならって2%程度に引き上げるのだという。しかしながら、その規模や、そのための増税については大きな異論も呼んでいる。防衛費増税(2027年度には1兆円あまり)については、世論調査で反対が71%を占め、また、76%の人が選挙で民意を問うべきであると回答している(2023年1月7-8日JNN世論調査)。
岸田首相はこうした方針について、国民に「理解」や「決意」を求めると繰り返す。だが、国民は政府によって決められたことを追認する存在ではない。国家の財政が民主主義に基づいて決定するべきものである以上、国民は自ら決定する主体である。もし、民意と決定に乖離があるならば、それは何故なのか。そもそも、どこから税を取ってどう使おうとしているのか。十分に説明されないことには、「理解」のしようもない。では、今のところ、どのような「説明」が行われているのか。あるいは、その提案内容や意思決定において本当に問題はないのか。本稿では財政学の見地から、現状分かる限りで説明を試みる。
「防衛費」はどれくらい多くなるのか
政府は、中長期の防衛政策の方針を示すものとして、通称「安保3文書」(「国家安全保障戦略」「国家防衛戦略」「防衛力整備計画」)を2022年12月16日に閣議決定した。3文書のうち5年間(2023〜27年度)での防衛経費等を定める文書が、「防衛力整備計画」だ。この「防衛力整備計画」によって、5年間で防衛関連費に43兆円使うことの提案がなされたのである。
5年間で「43兆円」と言われても、あまりイメージが湧かないかもしれない。単純計算すると、1年間平均で8.6兆円である。額が大きすぎて規模感が分からない、というのは財政を考えるうえでは、よくある問題だ。なので、いくつか参考になる数字をここで出しておきたい。基本的に、年間の国の一般会計当初予算(いわば“国のメインの財布”)が100兆円程度で、名目GDPは500兆円程度と覚えておくと、財政のニュースは聞きやすくなる(*1)。「1年間の防衛関連費を対GDP比で1%から2%へ」というのも、500兆円に掛け算をして概算すれば、だいたいのイメージがつくだろう(*2)。一応、他の比較対象としての数字も挙げておくと、おおよそ1年間で所得税が20兆円、法人税が13兆円、消費税が21兆円程度である(2022年度)。また、大学無償化には年間1.8兆円が必要だと立憲民主党は試算している。
防衛関連費全体の規模感については、ある程度イメージがついただろうか。では、その中身はどうなのか? 先述の「防衛力整備計画」の概要を示した資料(「防衛力整備計画について」)では、以下のような内訳が示されている。
〈それぞれの設備の細目が適正なのか〉〈予算倍増に伴ってどのように防衛政策が質的に変化するのか〉などについては、財政以外にも、国際政治や憲法など様々な観点から論じられるべきであろう。筆者の専門は財政学の中でも、財政をめぐる政治の意思決定過程の分析であり、財政に対する民主主義的なコントロール(財政民主主義)である。したがって、以下では、現時点で分かっている限りの情報から、〈防衛費増額をめぐる「決め方」自体に問題がなかったか〉〈それは民主的な「決め方」なのか〉について論じていく。この「決め方」については、少なくとも3点の懸念すべき問題が浮かんでくる。
「マクロ・バジェッティング」による“どんぶり勘定”
第一は、端的に言って“どんぶり勘定”ではないか、という問題である。「防衛力整備計画について」においても、ほとんどの項目で「計数精査中」、つまり最終的な金額は検討中と記されており、「変動があり得る」との記述がほとんどすべての項目について付記されている。したがって、本当に必要な項目だけを積み上げて、全体の予算を組む、という「決め方」が行われたとは見なしがたいだろう。
(*1)
正確には、2023年度の当初予算は114兆円、2022年の名目GDPはIMFの予測値で555兆円
(*2)
正確には、2027年度に、現在の年間約5.2兆円から9兆円程度に引き上げようとしている