圧勝した大阪維新の会
「大阪都」構想は、大阪府と大阪市・堺市を合体させて「大阪都」を新たにつくる構想である。大阪府知事であった橋下徹氏が提唱し、その実現のために地域政党「大阪維新の会」を結成し自らその代表に就任した。2011年4月の統一地方選挙では、大阪府議会議員選挙で府議会の過半数を占めることに成功したが、同時に行われた大阪市議会および堺市議会の選挙では議席は得たものの過半数には達しなかった。そこで、11月27日に行われた大阪市長選挙に、自ら市長として構想の実現に取り組むため知事を辞任して打って出て、さらに「大阪維新の会」から知事候補を擁立、知事選挙と市長選挙を同日選挙に持ち込んだ。結果は、知事選、市長選とも大阪維新の会の圧勝であった。
大阪をどう変えるのか
この選挙で話題になった「大阪都」構想とはいかなるものであろうか。提唱者の橋下氏も新制度の詳細は明らかにしてはいないが、その必要性は市長選挙マニフェストに添付された「大阪都構想推進大綱」に次のように述べられている。(1)大阪の衰退を尻目に自治体は旧態依然と公務員天国が維持され、公債償還や過大な人件費等の支払いに追われている。自治体改革が必要である。
(2)大阪には、大阪府、大阪市という二つの自治体が存在し、大阪都市圏の都市経営の責任主体が不明確な無責任体制に陥っている。大阪府庁と大阪市役所を再編し、1人のリーダーが成長戦略を実施できる体制を整備しなくてはならない。そのため、大阪市および堺市を廃止して大阪府と合体、「大阪都」とする。廃止された両市域には人口30万~50万人の特別自治区を設置する。特別自治区の区長は公選制とし、現大阪市・堺市の各行政区内に地域自治区を設置する。
その他、大阪府立大学と大阪市立大学の統合、大阪市水道局の大阪広域水道企業団への統合、国民健康保険、介護保険を大阪府全域で一体化、大阪港と泉北港の一体的管理、市立の美術館、博物館、図書館や体育館を一括管理する地方独立行政法人の設立などを掲げている。
「大阪都」実現までの手順
このような、基礎的自治体(大阪市・堺市)と広域自治体(大阪府)の合体という形式および「都」の名称は、現在「東京都」で採用されているが、大阪が「都」構想を実現するには次のような手順を踏む必要がある。まず、大阪府を大阪都に変更する必要がある。都道府県の名称変更は「法律でこれを定める」こととされている(地方自治法3条2項)。この法律は、「個々の特定の都道府県のみに関するものであるから、憲法第95条にいう『一の地方公共団体のみに適用される特別法』(「地方特別法」)として、関係住民の一般投票が必要になる」(松本英昭『新版逐条地方自治法』62ページ)。
この場合、もし、憲法上の住民投票を避けるのであれば、地方自治法3条2項を削除して、市町村の名称変更と同様に、都道府県の名称も条例で決めることができるように改正することとなる。前者は、まず国会の議決があって、それについて住民投票が行われる(地方自治法261条)ので、当該法律案を提出し議決するかどうかが国会の判断に委ねられる。後者は、地方自治法改正案を提出しこれを国会が可決しなければならない。いずれにせよ、国会の動向いかんということになる。
道のりは平坦ではない
「大阪府」を「大阪都」に変更することのほかに、現在の大阪市および堺市を廃止し、その区域にいくつかの特別区を設置することになる。大阪市の廃止は、大阪市議会の議決→大阪府知事への申請→大阪府議会の議決→決定→総務大臣への届け出で行われる(地方自治法7条)。堺市も同じである。市の廃止は上の方法で可能だが、特別区の廃置分合については「関係特別区の申請に基づき、都知事が都の議会の議決を経てこれを定め」、総務大臣に届け出ることとされている(地方自治法281条の4)。したがって区が存在していない状態での区の新設は、現行法の手続きではできないということになる(申請者たる関係特別区がない)。この場合には、両市の区域に特別区(特別自治区)を設置する特別法が新たに必要となり、再び地方特別法の住民投票が必要となる。この場合、市の廃止が既存の手続きで行われることを考慮すると、「大阪府」への名称変更と区の設置を同時に行う法律の制定には難しさが想定される。ここにも、国会の動向いかんという要素が横たわっている。
大阪維新の会は、「大阪都構想」の具体化を急ぎ、各政党への理解を求めていくとともに、大阪維新の会の候補者を擁立するなど国政への進出を検討するとしているが、その道のりは決して平坦(へいたん)ではない。