2017年9月24日にドイツで行われた連邦議会選挙では、連立与党が大幅に得票率を減らし、4期目を迎えるアンゲラ・メルケル首相の指導力が弱まった。難民政策について強い不満を抱く有権者は、大連立政権に対して厳しい審判を下した。さらに第二次世界大戦後初めて、極右政党が第3党として100人近い議員団を連邦議会に送り込むという異例の事態となった。イギリス、アメリカ、フランス、東欧諸国で吹き荒れる排外主義と右派ポピュリズムの嵐が、ドイツの足下にも及んでいる。
政権与党の歴史的敗北
メルケル首相が率いるキリスト教民主同盟(CDU)と、姉妹政党でホルスト・ゼーホーファー党首(バイエルン州首相)のキリスト教社会同盟(CSU)の得票率は、前回(13年)の選挙に比べて8.5ポイント減って、33.0%となった。これは同党にとって1949年以来最低の得票率だ。
さらにCDU・CSUと大連立政権を構成していた社会民主党(SPD)の得票率も、前回の選挙に比べて5.2ポイント減り、20.5%となった。これは、同党にとって第二次世界大戦後最も低い得票率だ。マルティン・シュルツ党首は、SPDが次の政権に加わらず、野党席に戻る方針を明らかにした。
これに対し、排外主義を掲げる極右政党「ドイツのための選択肢」(AfD)は、12.6%の得票率を記録して、結党からわずか4年で連邦議会に入ることに成功した。ドイツでは、小党乱立を防ぐために、得票率が5%に満たない政党は、議会に会派として議席を持つことができない。前回の選挙では、AfDの得票率は4.7%に留まり、議会入りに失敗していた。だが今回AfDの得票率は、緑の党、自由民主党(FDP)、左翼党を上回り、同党は一挙に第3党の地位に躍り出たのだ。
極右政党が得票率を2.7倍に増やして躍進したのは、ドイツの世論調査機関やメディアにとって想定外の事態だった。2017年6月の時点では、AfDへの支持率は6.5%に留まっていた。世論調査機関は、「CDU・CSUは得票率を減らし、AfDが5%の壁を越えて連邦議会入りするだろうが、大きな会派にはならない」と予想していた。だが9月下旬に入ってAfDへの支持率が急上昇し、CDU・CSUとSPDは歴史的な敗北を喫した。
有権者の投票行動の変化を見ると、大連立政権への不満が人々をAfDに鞍替えさせたことがはっきりわかる。前回CDU・CSUに投票した有権者の内、98万人が今回AfDに投票した。また前回SPDに投票した有権者の内、47万人が今回AfDに投票した。つまり、連立与党はあわせて145万票をAfDによって奪われたことになる。AfDは緑の党、左翼党、FDPの支持者も切り崩し、最終的に590万票を獲得した。
中央政界を揺るがす地殻変動
日本では国政選挙のたびに投票率の低さが問題となるが、ドイツの17年の連邦議会選挙の投票率は、前回に比べて4.7ポイント上昇して、76.2%となった。これは、多くの有権者が今回の選挙を「メルケル首相が率いる大連立政権への不信任投票の機会」と見なし、AfDに積極的に投票することによって、抗議の意思を表す市民が増えたため、投票率が上昇したものと推定されている。これまで欧米では、「投票率が高い場合には、伝統的な大政党が有利になり、低い投票率は新興政党や過激政党を利する」と言われてきたが、今回の連邦議会選挙はこの通説も打破したことになる。
中央政界の地殻変動は、議席数の変化にはっきり表れている。連立与党だったCDU・CSUとSPDの議席数は、あわせて105減る。これに対して、AfDは94もの議席を獲得することになった。