SNSで排外的な投稿やリポストをしつつ、自己紹介欄には「右派でも左派でもない普通の日本人」「ただ普通に日本を愛しているだけの日本人」――そんな言葉を載せているアカウントは少なくない。日の丸をアイコンとするそのような人々を総称して『日の丸クラスター』と呼ぶネットスラングもあるそうだが、今、そんな“普通の日本人”の裾野がどんどん広がっているように感じる。
そのきっかけとなったのが「日本人ファースト」という言葉だ。
日の丸の小旗を振り、「ニッポン」とコールしながら移民政策反対デモに参加する一方、職場や家庭では「善良な隣人」だろう人々の姿が2025年の夏以降、突然、可視化された。
そんな“普通の日本人”が抱える不安や剥奪感から、分断の瀬戸際に立つに至った日本社会の行く末を、さまざまな専門家との対話を通じて考える。
秦正樹氏(右)と雨宮処凛氏(左)
■コロナ禍以降、エスカレートする「陰謀論」
過去、「ネトウヨ(ネット右翼)だった」ことを公表している政治学者がいる。
それは大阪経済大学准教授の秦正樹さん。
研究テーマのひとつは「陰謀論」だが、研究のきっかけは自らの過去にあるという。
以下、秦さんの著書『陰謀論 民主主義を揺るがすメカニズム』(中公新書、2022年)のあとがきからの引用だ。
「筆者が陰謀論に関する研究をはじめたのは、2016年ごろからである。院生時代から、博士号を取得したあとは日本の陰謀論を研究テーマにしたいと決めていた。というのも、筆者は学部生時代に、いわゆる『ネトウヨ』だったからである。政治学を学び始めた動機も、『外国に支配された日本を救いたい』という『愛国心』に突き動かされてのものであったし、少なくとも当時の筆者はそれを『普通』と考えていた。まさに本書でも言及したように、『ただ日本を愛するだけの普通の日本人』なのになぜ『ネトウヨ』などと揶揄されるのだ、と強い反感を覚えることもあった。もちろん、大学院に進学し、実証政治学を学ぶ過程で、そうした大きく偏った政治的考えは完全に霧消し、当初の『崇高』な信念は、単なる『黒歴史』に変わってしまったわけだが……」
秦さんの著書『陰謀論』は、人が陰謀論にハマるメカニズムをさまざまな角度から分析し、多くの気づきを与えてくれる良書だ。特に驚かされたのは、陰謀論に流される層の特徴。政治や社会問題についての知識が乏しく、関心も薄い層が「わかりやすい物語」に飛びつくというイメージが私の中にはあったのだが、実際には政治への関心が高く、知識が多いほど陰謀論に流されやすい傾向があるという。また、陰謀論には右派・左派関係なく、自分の信念と共鳴するような陰謀論であれば引き寄せられる可能性があるという指摘にも唸らされた。
そんな「陰謀論」、コロナ禍以降、未知のウイルスに対する恐怖やワクチンへの不安を原動力として世界で猛威を振るっているわけだが、25年からこの国ではさらにエスカレートしている気がするのは私だけではないだろう。
特に25年下半期以降、「日本人ファースト」という言葉の下、「外国人問題」への対応がこの国の一丁目一番地のような扱いとなり、SNSにはデマやフェイクが溢れている。
クルド人へのヘイトはより苛烈になり、JICA(国際協力機構)アフリカ・ホームタウン構想にまつわる騒動は誤解と報道されてからも各自治体に抗議が相次ぎ、また、北海道・江別市のパキスタン人が経営する中古車店などの一帯が「パキスタン村」と揶揄され、ロケット花火が打ち込まれるなどの事件も起きている。
また、25年夏の参議院議員選挙では参政党が大躍進したわけだが、その参政党は「陰謀論」とセットで語られることも多い。
ざっと思い出すだけでもメロンパン(同党元共同代表が過去の選挙演説で「メロンパンを食べて死んだ人はたくさん見てます」と発言)、ジャンボタニシ(同党員が除草目的で外来種のジャンボタニシを田んぼに撒き、稲作関係者などから批判を浴びた)などが浮かぶわけだが、『参政党Q &Aブック 基礎編』(青林堂、2022年)には「あの勢力」という記述もある。「あの勢力」とは「ユダヤ系の国際金融資本を中心とする複数の組織の総称」というのだから、もろに陰謀論ワールドだ。
参政党代表の神谷宗幣氏が結党前の18年に立ち上げたセミナー「イシキカイカク大学」の講義内容もすごい。「この世を支配する『裏の力』の存在を知る」「ヒトラーは本当に巨悪だったのか」「来日・在日外国人犯罪と在日特権」などなど、陰謀論オールスターといった趣だ(「参政党の躍進の源流は 『メディアが伝えない情報』売りにネットで絆」朝日新聞2025年8月4日付)。
一方、反ワクチンや無農薬へのこだわりが強いのも特徴で、オーガニックやスピリチュアルとも親和性が高い。
そんな参政党について、作家の古谷経衡氏は、「『日本人ファースト』すらも広義の陰謀論」と指摘する。「外国人が恣意的に社会から優遇されている、という陰謀論が苗床になっている」からだ(『陰謀論と排外主義』扶桑社新書、2025年)。
この数年、この国では「久々に実家に帰ったら親が陰謀論者になっていた」なんて悲報を耳にすることも珍しくなくなった。
そのような中、私の周りでは25年の参院選以降、「ずっとリベラル政党を支持していた友人が熱烈な参政党支持者になった」「参政党の政策には賛同できる面もあるが陰謀論的な主張が気になる」などの声も少なくない。ある意味、「参政党だけでなくその支持者とどう向き合うべきか」が大きなトピックになっているのだ。
このような現実に対し、「日本人ファーストは排外主義」と断じて「差別は許さない」という姿勢を見せる人もいれば、「頭ごなしに否定すると相手はより頑なになり、自らの正当性を示すために外国人は危険/優遇されているという言説をさらに探しに行くから良くない」と言う人もいる。「まずは対話」と言う人もいれば、「対話など論外」と言う人もいる。