Windows Vistaが緩やかな船出
ちょっとパソコンに興味のある方なら、ご存じだとは思うが、今年2007年の1月30日、マイクロソフトはパソコン用の基本ソフトとして、圧倒的なシェアを誇るWindows(ウインドウズ)の最新版、Windows Vistaの個人向け出荷を開始した。それまでのバージョンであるWindows XPの出荷開始は01年11月で、04年にマイナーチェンジとしてサービスパック2(Windows XP SP2)が提供されたものの、実質的には5年以上ぶりのメジャーバージョンアップとなる。ドッグイヤーと呼ばれるほどテンポの速いITの世界で、5年間の維持というのは、実に希有なことといえる。この出荷開始によって、量販店頭に並ぶパソコンは、一部の在庫を除き、ほぼすべてWindows Vista搭載機に入れ替わった。おそらく4月を過ぎれば、通常の方法でXP搭載のメーカー製パソコンを購入することはできなくなるだろう。もっとも、個人で使うパソコンならあえてXPを選択するといった冒険をすることもない。今や、パソコンは、家庭電化製品と同様に壊れるまで使われ、壊れて直すよりも、買った方が安いという状況になったところで、新しいものを物色するといった使われ方になっている。こうして、順次、家庭にVistaパソコンが入っていき、緩やかに入れ替わっていくだろう。
この5年でハードウエアは大きく変わった
基本ソフトが5年強もの間変わらなかったのに対して、ハードウエアの方は、かなりの刷新が行われている。心臓部ともいえるプロセッサーは、その基本設計も新たになったし、ハードディスクの容量や、読み書きのスピードも向上した。また、メモリーの価格も安くなっている。だから、2年前くらいのハイエンドパソコンなら、今、Vistaを入れて使っても十分に機能するだろう。量販店に行けば、XPからVistaへのアップグレードパッケージが入手できるので、自分でアップグレードをするという手もある。テレビ機能などを満載したメーカー製のパソコンよりも、シンプルな構成のパソコンの方が、移行はやさしい。また、メーカーはメーカーで、アップグレードを保証できる機種に関しては、アップグレードキットを提供しているので、それを購入すれば、より簡単にXPをVistaにアップグレードすることもできる。2006年以降に出荷されたパソコンなら、そのほとんどが該当する。だが、Windows Vistaにしたからといって、そのパソコンでできることが増えるわけではない。ここが重要だ。いや、最悪の場合は、使えないソフトや周辺機器が出てきてしまう。対応は進むだろうが、この春といったタイミングでは、できなくなることの方が多いかもしれない。移行のためのコストや手間を考えたら、今、不都合なく使えているパソコンはそのまま使い続け、次のパソコン購入のタイミングを、少し前倒しにシフトして検討するといった判断がリーズナブルだ。
Vistaの魔法を期待するな
手元では、企業向けに出荷された2006年の11月以降、すでに5カ月近く、Vistaパソコンを使っている。品質が常用レベルに達して以降のベータテストの時期を入れれば、ほぼ1年になるが、もはや、XPに戻る気にはなれない。日常的に使っている複数台のパソコンはすべてVistaで、数台残っているXPパソコンをたまに使うと、古ささえ感じる。でも、Vistaは、今までできなかったことをできるようにする、魔法の基本ソフトではない。いってみれば、4ナンバーのライトバンから、5ナンバーや3ナンバーのステーションワゴンに乗り換えるようなものだ。見かけも似ているし、行けるところも同じだが、乗り心地は、ゴージャスで快適だ。それにクルマと違って、パソコンには法定制限速度もない。最新のパソコンは処理性能も高く、使っていて気持ちがいい。少なくとも、パソコンを使うにあたり、業務用の冷蔵庫を使っている感じはなくなるだろう。そこに、どのくらいの価値を見いだせるかということだ。
今、Vistaを拒む理由はないが、今の環境をいったん壊してまで、あえて積極的に移行する理由もない。もっとも、Vistaの普及をにらみながら、5年前に比べればかなりスペックの高くなっている、最新のパソコンで使われることを前提としたハードウエアや、ソフトウエアが次第に出てくることになるだろう。これから出てくる新しいパソコンが提供する機能に食指が動いたら、壊れていなくてもパソコンを買い替えよう。そのパソコンには、必ずVistaが入っている。
Vistaの不幸を理解しよう
今から10年以上前、1995年、マイクロソフトは、従来のパソコン環境に革命的な変革を起こす新世代のOSとして、Windows 95の出荷を開始した。あのときは、何が何でも乗り換え、買い替えを勧めたし、それでよかったと今でも思う。また、5年前のXPの出荷時にもそうした。今回のVistaは、Windows 95に匹敵する刷新だと言われているし、見えない部分にも、多くの改良が入っている。マイクロソフトにとっては、これだけ多くのユーザーがWindows XPを使っている以上、コペルニクス的転回で、使い勝手に大きく手を入れることはできないというジレンマもあるのだろう。それが、かえって、新しさをスポイルする結果となっている。Vistaはそういう不幸も背負っている。大事なのはそこにVistaがあるのに、わざわざXPを選ぶことはないということだ。移行のリスクを背負ってまで、急がなくていいと思う。次は必ずVistaなのだから。